今年のダービーのあと、東京競馬場は特別な幸福感に包まれていた。
1番人気の勝利ではあったが、馬券を取り損ねた人も少なくはない。それでもみんなが納得した顔をしていた。レースを終えた馬が引き上げてくる検量室の混雑も久しぶりだった。ここしばらくは勝ち馬の関係者だけが熱を帯び、ほかは冷静にその光景を眺めるような雰囲気が多かったが、この日は誰が関係者なのかわからないほど、みな上気した顔をしていた。泣いている顔もあった。競馬界のシンボルとダービーが組み合わさって生まれる熱化学反応はさすがにすさまじかった。
武豊に導かれてダービー馬に上り詰めたキズナは直前にGIを使わず出走してきた馬である。前例がないわけではないが珍しい。その馬が強い勝ち方をした皐月賞馬を押しのけて1番人気になる。強さへの期待と評価のほかに、そこには間違いなくファンの願望も含まれていた。だから、映画「七人の侍」の名せりふをもじっていえば、「勝ったのは馬ではなくファン」ということになるかもしれない。
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photograph by AFLO