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北島康介、五輪へ向けついに始動!!
世界水泳「金と0.22秒差」の舞台裏。
text by
川上康介Kosuke Kawakami
photograph byAFLO
posted2011/08/01 11:50
「悔しいけど悔いはない。最後は久々に頭ん中、真っ白になった。やられたけど、こういうの必要」。レース後に発せられた“北島節”も貫禄十分だった
「悔しいけど、悔いはない」
7月29日、上海オリエンタルセンターで男子平泳ぎ200mの決勝レースを戦った直後、北島康介は気丈にそう語った。その顔は蒼白で、立っているのもやっとという状態。二十分以上経った後の表彰式でも、時折震える膝に手をおき体を伏せるなど、体力を限界まで使い切ってしまった様子がありありと伝わってきた。
それでもその顔には、真っ向勝負を挑み、極限状態まで自分を追い込んだ人間の充足感が浮かんでいた。
もはや課題は明白だ。
150mまでの泳ぎは世界記録を上回り、完璧だった。残り50m、北島康介の泳ぎができれば、“高速水着時代”に樹立された世界記録(オーストラリアのクリスチャン・スプレンガーが持つ2分7秒31)をも上回ることができただろう。
心身ともに万全では無い中、今季自己最高タイムを2回も更新!
「しっかりとしたスタミナがつけば……」
4月に左太ももに肉離れを起こし、泳ぎ込み不足で臨んだ今回の大会でこれだけの泳ぎができたことに、北島自身思うところがあったのではないだろうか。
その三日前とは、まるで別人のようだった。100mの決勝でダーレオーエン(ノルウェー)に完敗した翌日、宿舎となるホテルで彼とすれ違った。
「200はやるしかないでしょ」
言葉では、そう強気に言いはってはいたが、これまでに見たこともないほどの元気のなさ。ダーレオーエンの強さを目の当たりにし、自分の泳ぎを見失ってしまったことにかなり動揺したのだろう。
「期待してるよ」と言うと、
「うん、でもまずは決勝に残ることだね……」
この精神状態では、予選落ち、準決勝落ちもありうる……あの日の北島は本気でそう思っていたのではないだろうか。
しかし中二日で彼は復活した。満足できる結果ではなかったとはいえ、捨て身の泳ぎで銀メダルを獲得し、日本中に感動を呼び起こした。肉体的にも精神的にも万全の状態ではないなかで、準決勝、決勝と今季自己最高タイムを2回更新したところに、北島のすごみがある。
なぜ北島康介は復活できたのか?