博多の人・王貞治BACK NUMBER
「ショックで、震えが止まらんかった」藤井将雄逝去の激震のなかで王ダイエーが挑む史上最大の決戦“ONシリーズ”「ちょっと辛かった…」
text by

喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKYODO
posted2026/08/31 11:05
藤井将雄のあまりにも早すぎる死がホークスの仲間たちに残した思いとは。そして否応なく、20世紀最後にして最大の決戦が訪れる
日本シリーズ開幕戦、ダイエーは若田部、巨人は工藤が先発だった。
「日本シリーズは……ちょっと辛かったですね。工藤さんだし、そこでやり辛い部分もありましたし、やっぱり、気持ちの落ち込み方がひどかったんで……」
ふとしたときに、藤井のことを思い出してしまう。
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なんで、いないんだ。もっと、自分に何かできたのかもしれない。答えは、永遠に出ないと分かっている。しかし、心に整理がつくまでには、時間が短すぎたのだろう。
「あんまり寝ていない、っていうか、睡眠もそうだし、ただ、考えることが……。ぼーっとしてしまうというのか……。そりゃ、大事な日本シリーズを控えていて、そっちのこともやりながら、どこかしらに……。必ずしも万全で臨んだっていうのは、自分の中では……。でも、そんなこと言っても、しょうがないですし……」
「最初で最後になってほしい」葛藤
若田部は、取材でも決して、こちらが求めてしまいがちな、見出しになるような、それこそリップサービス的なことは言わないタイプだった。現役時代、若きエースと呼ばれた頃はちょうど、私が「鷹番」として、サンケイスポーツの記者を務めていた頃だった。しかし当時、若田部と話が弾んだという記憶が、残念ながらほとんどない。
だから今回、藤井のことを聞くのに、少々迷いがあったのも確かだった。若田部の性格から推察すると、ひょっとしたら、断られるかもしれないと思っていた。
聞いていいのかな、という一抹の不安を抱いていたという、私の正直な思いも告げた。
「20何年前と同じ話です。今だから、っていう話ではないと思うんです。実は……みたいなところはないですよ。何回もあることじゃないんで、とりあえず今は、最初で最後になってほしいです。それ以降はないですけどね」
若田部にとっても、こうして、あの時の葛藤を話せるようになるまで、それなりの時間が必要だったのだろう。仮に、若田部の立場を自分自身に置き換えて考えてみても、私なら、半年以上にわたって、周囲に悟られることなく心の平静を保つことなど、貫き通せる自信が全くない。

