プロ野球PRESSBACK NUMBER
「あのとき、江川さんは初めて努力をしたんじゃないか」永遠のライバル・西本聖が語る“地獄の伊東キャンプ”「最後も巨人で…感謝しています」
text by

元永知宏Tomohiro Motonaga
photograph byHideki Sugiyama
posted2026/08/01 11:04
永遠のライバル江川の背中を追い、長嶋に鍛えられて球界を生き抜いてきた西本。プロ人生を振り返りその胸に去来するものとは
「それまではチームでまとまって秋季キャンプをやる球団はありませんでしたけど、伊東キャンプのおかげで自分は成長することができました。
春のキャンプの場合、練習が終わって宿舎に戻ってすぐにシャワーを浴びて着替えることができたけど、伊東キャンプはそうじゃなかった。自分の部屋に戻っても、ユニフォームのまま、動けない。30分か1時間くらいはそのままでした」
春季キャンプにはシーズンに向けた準備という意味合いがあり、故障を避けなければならない。しかし、秋季キャンプであれば徹底的に鍛えることができる。
選手が「長嶋ファミリー」になった瞬間
ADVERTISEMENT
伊東キャンプの厳しさと、監督と選手との結びつきを示すエピソードがある。
一日の終わりに走るクロスカントリーコースがあった。中畑にけしかけられた篠塚が長嶋監督に「見ているだけじゃなくて走ってみろ」と言ったという。挑発された長嶋が「よおしっ」と言って駆け出した。引退から5年が経過し、40代半ばになっていたが、“ミスタープロ野球”の負けん気は健在だった。
その時の様子を、中畑が長嶋への弔辞としてこう語っている。
「やっと姿が見えた時にはもう、息絶え絶え。子供がうんこを漏らしたようなそんな感じで、ヘタヘタになって帰ってくる。その姿を見て我々は長嶋コールを始めました。『長嶋、長嶋、長嶋』」
中畑はこう続けた。
「みんなが長嶋ファミリーになった瞬間ではなかったかという気がします」
野手陣とは別メニューの練習を行っていた投手陣も、このキャンプで結束が固くなったと西本が言う。
「ピッチャーはみんな、競争をしていました。そんななかで中心に江川さんがいるという状況が自然にできあがりました。みんな、投球練習もすごかったですよ。ブルペンキャッチャーの所憲佐さんには、『おまえら、いい加減にしてくれよ』と怒られました。みんな、100球、200球投げても終わらないから」
ブルペンで横並びになった江川と西本。ふたりは言葉をかわすこともなく、黙々と300球以上を投げ続けた。


