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「今は生きるのがすごく楽になった」金メダリスト・角田夏実が引退を決めたワケ…絶頂期でも「五輪チャピオンの価値を崩したくなかった」柔道家の美学
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byKiichi Matsumoto
posted2026/05/18 17:02
今年1月に引退を発表した角田夏実が一戦を退く理由を明かした
「やっぱり出場するなら勝ちたいし、負けたくないんですよ。でも、そのためにはどう考えても準備する時間が足りなかったんです。パリまでに費やした準備を考えると余計にそう感じてしまって。中途半端な気持ちでは試合に挑めないし、それでは周りの選手にも申し訳ない。なによりもオリンピックチャンピオンという価値を、そんな状態で畳に上がることで崩したくなかったんです」
五輪王者としてのプライドが妥協を許さなかった。準備が100%整わない状態で舞台に上がることは、自分を信じて応援してくれる人たち、そして柔道という競技そのものに対しての敬意を欠いた行為だとも考えた。
角田は勝つ確率を最大化するために「穴はなくせるだけなくしたい」と常に極限まで研ぎ澄ませてきた。
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その考えにいたるようになった最大のターニングポイントは、階級を変えた2019年だった。積み上げてきた自分を一度壊し、あらたな自分を組み直す。その決断が角田の柔道人生を変えたと言っても過言ではない。
「やるだけやって駄目なら引退」の覚悟
それまでは52kg級でオリンピックを目指し、2017年の世界選手権では銀メダルを獲得するなど第一線に。しかし、その後、阿部詩、志々目愛が台頭し、怪我などもあって代表争いからは遅れを取る形になってしまう。
「当時、阿部選手と志々目選手と私が三つ巴のような戦いをしていました。この2人を倒せばオリンピックが見える……そう思っていた矢先、阿部選手に頭一つ抜かれてしまって。そこで52kg級で東京五輪を目指すのは厳しい状況になりました。ただ、夢だったオリンピックが手の届きそうなところまで近づいていたので、諦めきれなかったんです。目指すならパリが最後のチャンスだなと思っていましたし、階級を変えてもがくのもいいんじゃないかと考えるようになりました。そのわずかなチャンスにかけて、48kg級に変更したんです。やるだけやって駄目なら、そのときは引退する。それだけの覚悟で臨みました」
結果的に同階級でも東京五輪代表の座を逃して補欠となったが、1年の延期期間中も、めぐってくるかどうかもわからない万が一のために、ひたすら牙を研ぎ続けた。
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