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「今は生きるのがすごく楽になった」金メダリスト・角田夏実が引退を決めたワケ…絶頂期でも「五輪チャピオンの価値を崩したくなかった」柔道家の美学
posted2026/05/18 17:02
今年1月に引退を発表した角田夏実が一戦を退く理由を明かした
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Kiichi Matsumoto
発売中のNumber1142・1143号に掲載の[新たな地平へ]角田夏実「パリの金メダルは次章の扉に」より内容を一部抜粋してお届けします。
引退発表まで1年半の“葛藤”
「以前の自分だったらトレーニングやランニングなど、日々のルーティンをやらないという選択肢はなかったし、どれだけやっても完璧はない、常に何かが足りないと思いながら過ごしていましたが、一線を退いた今はそれほど追い込まれることがなくなりましたね。今は生きるのがすごく楽になったような気がします」
引退会見から3カ月。パリオリンピック柔道女子48kg級金メダリストの角田夏実は、清々しい表情で語った。
「(1月下旬に)会見をしてようやく次のスタートへ気持ちを切り替えられたというか、行く先が明るく見えてきて。これから自分に待ち受けているもの、そして私に何ができるか、今はワクワクするような楽しい気持ちでいっぱいなんです」
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だが、引退を発表するまでのパリからの1年半は、続けるのか、それとも競技から退くのか、気持ちが大きく揺れた。
「今日は続けると思っていても、明日には辞めるとか、考えがコロコロ変わるんですよ。よく“どっちなんだよ”って自分に問いただしていました。それほど、はっきりしなかったですね」
どちらに転ぶかは、当の角田にもまったく予想がつかなかったという。
「中途半端な気持ちでは試合に挑めない」
パリの半年後に行われたグランドスラムでは優勝し、客観的に見ても、力が衰えているとは微塵も感じなかった。まだまだ絶頂期にある。次の'28年ロサンゼルス五輪も目指せるのでは、そんな期待を誰もが抱いたはずだ。だが、彼女は第一線を退く決断をした。それはなぜだったのか。そこには誰よりも冷静に分析する自分と、柔道家としての誇り高き美学があった。
「負けるかもしれないと不安に感じるような準備不足の状態で畳に上がることだけは、絶対に嫌でしたね」
角田夏実というアスリートを突き動かしてきたのは類い稀なる才能だけではない。これまで彼女は「私は決して強くないので」という言葉を繰り返してきたが、頂点まで上り詰めることができたのも、自分の「弱さ」と誠実に向き合い続けてきたからにほかならない。
昨年、五輪王者となった後、世界選手権に出場する権利を持ちながらも辞退している。コーチや周りのスタッフからは「負けてもいいから出ればいいんじゃないか」「ボロボロになっても戦い続けるのが生き様」と説得されたが固辞した。

