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中谷潤人に負けたボクサーの異変「“効いてない”のに、ドロっとした血尿が…」望月直樹が試合後に知った“中谷の本当の強さ”「何回やっても勝てない」
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森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/05/01 11:07
望月直樹が中谷潤人と対戦した2019年2月2日の日本フライ級王座決定戦。試合中には気づかなかったもの、体には深いダメージが刻まれていた
――中谷選手のアッパーはいかがでしたか。
「パパッと動く速さはないんですけど、動いていないものが急に動くスピードっていうか、余分な動きが一切ないんです。僕がパンチを打って頭を下げたら、もう顎の下に拳がある感じ。まったく見えないし、わからなかった」
――試合後の気持ちは。
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「中谷君、凄えな、と。負けたときって、次やったら勝てるし、とか、俺こうだったから、とか言い訳が出てくるんですよ。でも、中谷君に関しては何回やっても勝てないんじゃないかと初めて思いました」
――ダメージはなかった、攻略法も頭にはあった。でも勝ちが遠く感じたんですね。
「自分の中ではある程度(中谷を)崩せたし、攻めさせてもらった。ロープ際にも押し込んだ。でも、相手の顔を見たら無傷なんですよ。中谷君には二つの壁がありました。一つは距離という壁。その遠い距離を突破したら、接近戦というもう一つの壁があった。接近戦の壁は無理でしたね。近距離のアッパーしかり、ポジショニングもそうだし」
――でも、最後までダウンをしませんでしたね。
「耐えられましたね。それは母に感謝です。自分は打たれ強いので」
そう言って、母の顔をちらりと見た。
「血尿と、軽度の脳挫傷」試合後に判明したダメージ
試合後、望月は母と妹の3人で後楽園ホールからタクシーに乗って自宅へ帰った。
「お腹が空いたからなんか食べよう」
鶴見のラーメン屋に入り、試合後、初めてトイレに行った。えっ……。衝撃が走った。真っ赤でドロッとした血尿が出てきた。初めての経験だった。
まるで工事現場の作業車から流れてくるセメントのようにドロドロした尿。そのとき悟った。中谷の左ボディアッパーは恐ろしいまでのパワーで、ピンポイントを捉えていたのだ、と――。トイレで呆然と立ち尽くした。
望月は毎試合後、頭部の精密検査を行っていた。中谷戦後、CTを撮ってもらうと、どうやら影があるという。MRIを撮影すると、脳内に出血はなかった。幸いにして時間の経過とともに回復するものだったが、軽度の脳挫傷と診断され、医師から告げられた。
「数週間、安静にして過ごしてください」
ドロッとした血尿と軽度の脳挫傷。パンチがないし、効いていないと思っていた。だが、実際はかつてないほど大きな代償を負っていた。中谷の本当の強さと凄みを知ったのはむしろ試合後だった。背筋がぞっとするような戦慄のパンチだった。
<続く>

