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中谷潤人に負けたボクサーの異変「“効いてない”のに、ドロっとした血尿が…」望月直樹が試合後に知った“中谷の本当の強さ”「何回やっても勝てない」
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森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/05/01 11:07
望月直樹が中谷潤人と対戦した2019年2月2日の日本フライ級王座決定戦。試合中には気づかなかったもの、体には深いダメージが刻まれていた
望月には二つの誤算があった。いきなりラッシュをかけてくるとは……。あんなアッパーを打てるとは……。いずれもスパーリングのときにはなかった動き。あのときとは別人だった。
1ラウンド終了のゴングが鳴った。なんとか耐え忍び、2ラウンドから接近戦に挑んだ。
3ラウンド、距離が近くなり、望月がクリンチにいったときだった。両者の間にはもう隙間がない。その瞬間、中谷はフッと体の力を抜き、左アッパーを何発も突き上げてきた。おい、この距離で打ってくるのか……。あえて力を抜くことによって、ほんのわずかなスペースを作りだし、そこにアッパーを打ち込んできた。
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5ラウンド終了時の公開採点ではジャッジ2者が49-46、残り1人が50-45で中谷に振られた。採点は中谷優位であっても、望月自身、個々の駆け引きや攻防でそこまで差があるとは感じなかった。2ラウンド以降、思うような動きもできている。しかも、中谷にパンチ力があるとは思わない。アドレナリンが湧き出る中、闘っている感覚では五分に近かった。
とはいえ、被弾を重ね、劣勢は否めない。ボディへの左アッパー、顔面への左右アッパーが絶え間なく飛んでくる。鼻血を流し、顔は腫れ、目は塞がってきた。
「パンチはなかった」でも「何回やっても勝てない」
9ラウンド開始早々、ワンツーを食らった。腰が落ちる。だが、諦めてたまるか。試合前から狙っているパンチがあった。中谷が右アッパーを振ってくるところに、右フックを合わせる。望月はロープ際に下がった。これが最後の勝負だ。アッパーが来た。右フックを打つ。中谷の側頭部に当たった。しかし、望月にはもうパワーが残っていなかった。相手は動じなかった。最後の賭けにも負けた。終わった……。望月がそのまま前に出たところで、レフェリーが試合を止めた。
母はリングを見つめ、ずっと望月の姿を目で追っていた。だが、何も覚えていなかった。
「私、あまり記憶がなくて……。負けた試合って、私の中では記憶が削除されているんです。覚えているのは勝った試合だけで……」
か細い声で申し訳なさそうにそう言った。
喫茶店で、母の言葉を聞き、望月は深くため息をついた。
「闘っていて、中谷君のパンチ力はなかった。これまでの試合で、もっと痛いパンチをもらったことがあったので。ボディでも効いたパンチはなかったですね」


