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「中谷潤人にはパンチ力がない」対戦者が抱いた“錯覚”「アッパーを300発もらいました」“大谷翔平をベンチで見つめた”元高校球児が中谷に負けた日
posted2026/05/01 11:06
2019年2月2日、後楽園ホールで行われた日本フライ級王座決定戦。望月直樹は奮闘及ばず、中谷潤人に9回TKOで敗れた
text by

森合正範Masanori Moriai
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
◆
「アッパーをたくさんもらいましたもんね。鼻血も出たし、300発くらいもらったかな」
スーツ姿で取材場所の喫茶店に現れた望月直樹は真顔でこう言った。
試合で抱いた“錯覚”「中谷にはパンチ力がない」
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2019年2月2日、後楽園ホールでの日本フライ級王座決定戦で、17戦全勝12KOの中谷潤人と対峙した。「アッパー300発」はこの試合を振り返った際に出た言葉だった。それくらい食らったという比喩表現だと思い、「体感では300発くらいもらったイメージなんですね?」と尋ねると、首を振った。
「いや、感覚的ではなくて、本当に300発くらいもらいましたよ。俺、試合に向けた長身サウスポーとのスパーリングでも好調で、すごく自信があったんですけどね……」
7年前、望月の体に21歳の中谷が突き上げる拳が刻まれていった。9回TKOで敗れたものの、不思議と痛みもダメージもなかった。中谷にはパンチ力がない。試合中も試合直後もずっとそう思っていた。だが、真実を知ったのは試合後数時間が経ってからだった。
「あれ、覚えている? 試合が終わって後楽園ホールからタクシーで帰って、鶴見のラーメン屋に入ったときのこと」
望月はそう言って、取材に同席した母・正美に顔を向けた。タイでの地域タイトルマッチを含め、望月の全21戦(16勝8KO5敗)をすべて会場で観てきたのが母だった。
母はボクシングの試合だけでなく、望月が学法福島高に野球留学し、大谷翔平の花巻東高と対戦したときも観客席から見守っていた。
高校球児からプロボクサーへ。大谷翔平から中谷潤人へ。競技の異なる二人の才能と交差した望月はどのような半生を歩んできたのだろうか。

