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34歳・武尊“ダウン4度のKO勝利”の真実「敗者ロッタンは控室で泣いていた」「ノーガードは無謀ではない」奇跡のラストマッチを生んだ“2つの要素” 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byONE Championship Susumu Nagao

posted2026/04/30 17:56

34歳・武尊“ダウン4度のKO勝利”の真実「敗者ロッタンは控室で泣いていた」「ノーガードは無謀ではない」奇跡のラストマッチを生んだ“2つの要素”<Number Web> photograph by ONE Championship Susumu Nagao

引退試合でロッタンから4度のダウンを奪い勝利した武尊

勝敗を分けた“パンチではない要素”

 コンディションのよさに溺れることもなかった。2ラウンドと5ラウンドに2回ずつロッタンをダウンさせ、4度目のダウンでフィニッシュした武尊だが、パンチの打ち合いだけでなく全ラウンドを通してローキック、カーフキック(ヒザ下、ふくらはぎへの蹴り)を多用していた。

 武尊は打ち合いながら「こいよ!」とロッタンを煽り、フィニッシュ直前にも笑顔を見せていた。倒すか倒されるかの闘いが楽しくてしょうがない。だから笑ってしまう。新人時代からそうだった。だけど同時にローでコツコツとダメージを与えていく作業もしていた。

「頑張って興奮を抑えてましたね。試合のイメージを作る時に、どうしても我慢ができなくて殴り合いにいっちゃうんですよ。でも自分が強かった時の闘い方を思い出して。ロッタンとだから思い切り殴り合いたいけど、丁寧に削ってから殴るのを意識しました。応援してくれた人すべてのために勝ちたかったしベルトを届けたかった。だから自分と闘いました」

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 キャリア46勝28KOのうち、1ラウンド勝利は8。3ラウンド制の試合がほとんどだから、とりわけ多いというわけではない。武尊は派手な倒しっぷりが目立つものの“ケンカ屋”ではなく“削ってから倒す”タイプなのだ。打ち合いの中で頭を振り、相手の“的”をずらしてもいる。ボディを削るヒザ蹴りも得意技の一つだ。今回も2ラウンドに2度ダウンさせた後、トドメのラッシュを狙う場面でも焦らずにローから入った。

試合後半、武尊がノーガードだった理由

 ロッタンにKOされた試合では、練習で肋骨と胸骨を折っていた。「言い訳はしたくないけど、試合ができる状態じゃなかった」と、武尊はリベンジを果たした後で振り返った。試合中も無意識にボディをかばいにいってしまい、その瞬間に頭を打ち抜かれた。だが今回は万全なコンディションとともにディフェンスも意識していた。

 ノーガードで挑発する場面もあったのだが、それはよけるかカウンターを合わせるため。いわば打たせるためのノーガードだ。相手が打ってくると分かっているから問題はなかった。格闘技の世界では“見えるパンチなら倒れない”と言われる。

「ロッタン選手のパンチが強い、効くというのが分かった上でもらったので耐えられました。それに最後だからみんなの期待を裏切れない。死んでも倒れないと思ってパンチをもらいました」

 分かった上でパンチを食らい、攻め急がないように我慢して、手順を踏んで打ち合いの嵐にロッタンを巻き込んだ。嵐に飛び込んだのでも巻き込まれたのでもなかった。ロッタンはダウン後の3ラウンドから前蹴り主体で攻防を再構築してきた。タイ人らしい試合運びの妙。武尊はそこでペースを譲らず、的確にジャブを返していった。どちらもKOを狙い、しかし無謀ではなかった。

【次ページ】 敗者ロッタンは、控室でも泣いていた

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