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「人に見せるものでは絶対ないので」WBC侍ジャパン前監督・栗山英樹が記していた“栗山メモ”公開秘話…世界一に導いた采配の本音「本当は見せたくないです」 

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金沢隆大

金沢隆大Ryuta Kanazawa

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photograph byTatsuo Harada

posted2026/02/26 11:01

「人に見せるものでは絶対ないので」WBC侍ジャパン前監督・栗山英樹が記していた“栗山メモ”公開秘話…世界一に導いた采配の本音「本当は見せたくないです」<Number Web> photograph by Tatsuo Harada

WBCで侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹監督。日々記していた「栗山メモ」には何が描かれていたのか

「三原ノート」原本を見た栗山は…

 それから1か月半後。大会直前の2月に三原ノートの原本と新たに私たちが託された「勝利者の條件」を見てもらうために再び栗の樹ファームを訪ねた。新資料を見つめる栗山の目がみるみる真剣味を帯びてくる。ぱっと視線を上げると誰に言うわけでもなく「メモを取りたい」と自室に入っていった。数分ほど経つと栗山が白いノートを手に戻ってきた。これが毎日書いているという日記か。胸が躍る。白いノートを開き、真剣な表情でペンを走らせる。栗山は「勝利者の條件」を一文字一文字、ノートに写していく。

 何分経ったのかわからない、ゆったりとした時間が過ぎていく。真っさらなページに新たな文字が書かれていくが、過去の文章は一文字も見ることができなかった。一瞬、見せてもらいたいと頼もうかと思ったが、その気持ちを押し止めた。決して外に出さない、出せなかった喜怒哀楽を吐き出せるツールでもあり、機密事項などが書かれているものなのだろう。やはり見せてもらうのは厳しいか。それでも代表監督の胸の内をのぞき見ることができるチャンスを前に、簡単に引き下がりたくはない。一縷の望みを持っていたかった。取材クルーの誰もが栗山のノートを借り受けることを諦めてはいなかった。

 日本が14年ぶりの優勝を果たして幕を下ろしたWBC。東京オリンピック、サッカーワールドカップなど、ここ数年スポーツ界は大いに盛り上がったが、その中でも空前絶後の熱狂を巻き起こした大会からおよそ1か月が経った。桜はとうに散り、道行く人たちの服装が軽やかになってきた4月24日。東京・渋谷区にあるホテルのレストランの個室で、久しぶりに三木と落合の取材メンバーに加え、番組のチーフプロデューサーを務めた坊も顔をそろえていた。みなジャケットに袖を通している。この日はWBC優勝祝いと取材対応の御礼ということで、栗山と昼食をともにすることになっていた。

「あの栗山さん、お願いがありまして」

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 私たちは打ち合わせも兼ねて早く店に来ていたが、栗山も定刻の10分前には姿を現した。戦いを終えてユニフォームを脱いだ栗山の顔はいくばくか和らいでいるように見えた。手短にそれぞれの近況報告を済ますと、WBCの内情や番組の感想などを話しながら供される季節の料理を味わった。歓談を続け、食後のコーヒーが運ばれたタイミング、会食のお開きが見えてきた頃合いで、目配せをしながら全員が少し姿勢を正す。ひと呼吸を置いて三木が声をかけた。

「あの栗山さん、お願いがありまして。栗山さんが毎日書き続けているノートを拝見させていただけないでしょうか。そのノートを通して、どうやってWBCで優勝に導いたのかをひもとく番組を作りたいんです」

 4人が固唾を呑んで栗山を見る。しっかりとその意味を受け止め、こちらに目線を合わせてくる。言葉を発するまでのわずか数秒がとても長く感じられる。少し微笑んでいたような栗山が口を開く。

【次ページ】 待ちに待った連絡

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