将棋PRESSBACK NUMBER

「“喧嘩を売る気ですか”と中原誠が」「師匠を破門に」ひふみん加藤一二三の珍妙エピソード…対局経験棋士の記憶「病床でも藤井聡太の棋譜を」 

text by

田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

PROFILE

photograph byJIJI PRESS

posted2026/01/29 06:05

「“喧嘩を売る気ですか”と中原誠が」「師匠を破門に」ひふみん加藤一二三の珍妙エピソード…対局経験棋士の記憶「病床でも藤井聡太の棋譜を」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2016年12月、62歳差の対局を終えた加藤一二三・九段と藤井聡太四段

 加藤は昼休みにコンビニでおやつを仕入れると、そば茶、無糖コーラ、カマンベールチーズ、ミカン、フルーツゼリーなどを、次々と口に入れていた。原則として、対局中の食事は駄目だが、おやつ類の飲食は認められていた。その合間にはミニ聖書を読んだ。

 私は加藤の旺盛な食欲に圧倒され、対局も完敗した。加藤は当時、終局後の感想戦をほとんどしなかった。ただ私との対局では勝ったこともあり、10分ほど盤上で貴重な会話をした。

公式戦1000敗は名誉の「向こう傷」

 加藤は長考派の棋士だが、NHK杯で7回、早指し選手権戦で3回、それぞれ優勝した。いつも秒読みに追われているので、持ち時間が少ない早指し棋戦に強かったといえる。そんな加藤は「秒読みの神様」と呼ばれた。しかし敬虔なクリスチャンとして違和感を覚えた。大山康晴十五世名人が命名した「早指しの大家」を気に入っている。

ADVERTISEMENT

 加藤は1989年8月21日、公式戦の対局で通算1000勝を達成した(大山に次いで2人目)。以後も勝利数を積み重ねていった。その一方で2007年8月22日、公式戦で最多の通算1000敗を記録した。

 通常のトーナメント棋戦では、どんなに勝っても負けた時点で敗退となる。タイトル戦の番勝負や挑戦者決定リーグに数多く登場したことで、敗戦数が多くなった。1000敗の記録は、名誉の「向こう傷」といえる。

藤井聡太との62歳差対戦秘話

 そんな加藤が近年の対局で最も脚光を浴びたのは、2016(平成28)年12月24日だった。当時76歳の加藤は竜王戦で14歳の藤井聡太四段と対局した。藤井のデビュー戦で、62歳の年齢差がある最年長棋士と最年少棋士の対戦は大いに注目された。

 振り駒で先手番になった加藤は、実戦経験が豊富な「矢倉」の戦型を採った。「正攻法で教わりたい」と語っていた藤井は、加藤の注文に堂々と応じた。加藤の攻勢に藤井は守勢に立ったが、終盤で反撃して一気に寄せ切り、藤井がデビュー戦で勝利した。

 両対局者は次のように感想を語った。

加藤「途中まではいいと思っていましたが、渋い手と鋭い手をうまく指されて苦しくなりました。大局観が優れていて、終盤の寄せが速いのには驚きました」

藤井「デビュー戦で加藤先生に教えてもらい、とても光栄です。自分の力を出し切り、最後は何とか勝ちになりました」

【次ページ】 病床でも藤井六冠の棋譜を

BACK 1 2 3 4 NEXT
#加藤一二三
#中原誠
#藤井聡太
#谷川浩司
#高橋道雄
#米長邦雄
#南口繁一
#剱持松二

ゲームの前後の記事

ページトップ