濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
呑みこまれた“レジェンド”の郷愁。
UFCのリアルに屈した山本“KID”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byGetty Images
posted2011/02/12 08:00
デミトリアス・ジョンソンのリズムあるパンチの前に、為す術がなかった山本“KID”徳郁
山本“KID”徳郁の『UFC126』(2月5日、ラスベガス/マンダレイ・ベイ)参戦が発表されると、UFCのオフィスにはファンからの問い合わせが数多く届いた。
「KIDヤマモトの試合は見ることができないのか!?」
KIDのUFCデビュー戦となるデミトリアス・ジョンソンとの試合は、小見川道大vs.チャド・メンデス戦とともにプレミナリー・ファイト枠に配されていた。PPVでは放送されない“前座試合”である。近年、負傷もあって戦績を落としていることがその理由だろう。
ファンの声により中継された、異例の前座試合。
だが、ファンはKIDの試合が中継されることを熱望した。
修斗での衝撃的なデビュー。ダウンの応酬を繰り広げた大晦日の魔裟斗戦。『HERO'S』では70kg級トーナメントで優勝。宮田和幸をわずか4秒で飛びヒザ蹴りの餌食にした一戦も忘れがたい。スタンドでもグラウンドでも徹底してKOを狙う破壊的な闘いぶりの魅力は、アメリカのファンにもインパクトを与えていたのだ。
日本だけでなく、海外の格闘技ファンにとっても、彼はまぎれもない“レジェンド”である。高いニーズを受けて、UFCはKIDの試合をfacebookでオンライン中継することを決定。「KIDを見たい!」というファンの思いが、世界最大にして最高峰のMMA団体を動かしたということだ。
MMAというスポーツに屈した神の子“KID”。
お膳立ては充分。ここでKIDが勝っていれば、最高の結末だっただろう。だが、勝負の世界においてネームバリューと結果は直結しない。12勝1敗という戦績を持つジョンソンは、単なる“KIDの相手”ではなかった。
1ラウンドから、試合を動かしたのはジョンソンだった。前後左右にステップを刻み、常に先手を取ってパンチを当てていくジョンソン。KIDはカウンターのパンチを強振していくが、ジョンソンが動きを止めないため的を絞ることができない。遠い位置にいる相手に無理やりパンチを当てようとすると、狙い澄ましたタックルが待っていた。
KIDはKOを狙い、ジョンソンは勝利を狙うという構図だ。日本から来たレジェンドが“らしさ”を発揮しようとすればするほど、その隙を突いてジョンソンがポイントを積み重ねていった。
判定は3-0。結果としてファンが見たのは、レジェンドが“食われる”光景だった。そのことで、誰もがUFCの層の厚さ、レベルの高さを痛感したに違いない。