- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
「ピカソ選手は驚いたと思う」体格差は歴然なのに…井上尚弥が敗者ピカソに浴びせた“161発のジャブ”、なぜ圧倒できたのか? 怪物と最も拳を交えた男が解説
text by

森合正範Masanori Moriai
photograph byGetty Images
posted2025/12/31 06:50
12月27日、アラン・ピカソに12回判定勝利を収めた井上尚弥
「驚いたとは思います。リーチが長くて、サイズの大きい選手が自分から打っていくと、先に展開をつくれるはずなんですよ。それがほとんどなかったですから」
――井上選手のジャブが多彩で巧いのは以前からですよね。
「下から払うようなジャブだったり、軽くポーンって打つようなパンチだったり、強いジャブもあります。昔からもういろんなことをできましたね」
ADVERTISEMENT
――相手からしたら嫌ですよね。スパーリングでは実際どうでしたか。
「やりづらかったですね。どんなスタイルのボクサーでも、最短、最速で出せるパンチがジャブ。一番磨かなきゃいけないパンチです。その精度がとんでもなく高い」
井上の“ボディジャブ”はなぜ効果的なのか?
――井上選手のジャブの凄さというのは?
「やはりタイミングだと思います。普通に打ってるように見えて、向かい合ってる人間からしたら『このタイミングで来ないだろうな』というときに、絶対打ってくる。外から見ていたら、それは分からないと思います」
――それは「リズムをずらす」ということなんですか?
「リズムとか呼吸とか、言葉で説明しづらいんですよ。向き合った人の感覚です。来ないと思ったときに来るんで、パンチも効く。まあ単純にパンチの強さと速さ、それにプラスして意識してないときに来るんで、2倍、3倍にもなって効いてくる」
――対峙すると、相手が「来ない」と思っているタイミングはわかるんでしょうか?
「レベル差がある相手には分かります。生意気ですが、僕もキャリア最後のほうは割と意識していました。ここでジャブを打ったら反応できないだろうな、と。井上選手はすごく重視していると思う。速いテンポで攻めているんですけど、相手をじっくり見ているじゃないですか」
――上にも下にも予期しないタイミングで来ると?
「特にボディジャブですよね。元々パンチが強いし痛いので、顔面はもらっちゃダメだと思って上を固める。だから、他の選手よりボディジャブを当てるっていう点では有利なんです。彼と対峙すると、ボディジャブ(の対応)は疎かになると思います。それで速い踏み込みからのボディジャブをもらうと、やっぱり痛い。で、ボディジャブ嫌だなと思って反応すると、今度は上だったりする」


