- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
ボクシング堤聖也なぜ“激闘”が多いのか?「弱い相手とやって長く王座にいるつもりはない」ドネア戦前に明かす“1995年組”への劣等感
text by

杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/12/15 11:00
2025年2月、比嘉大吾とのリマッチで流血しながらも防衛を果たしたWBA世界バンタム級王者・堤聖也(29歳)
「僕のルールは“試合に臨むとき、これで負けたら仕方ないと思えるレベルまで準備すること”。後悔したくないから、準備を徹底する。サンドバッグのラスト10秒とか、ダッシュのときのゴール前のラスト2歩とか、気が抜けたかもしれないとかいうのがあると、負けたときに後悔する。絶対にそれがないように、準備、準備、準備。スパーリングで心が折れる時もあるけど、それを積み重ねて、試合当日リングに持ってくる」
その努力が報われた井上拓真への“初勝利”は、まさに人生をかけて行なってきた準備が結実した甘美な1勝だった。アメリカで井上対堤戦を配信したESPN+の放送席は、中盤頃から「ツツミがこのペースで最後まで戦えるとは思えない!」と繰り返していた。実際には同じ手数のままフルラウンドを戦い、判定勝ちを手にしたわけだが、それでも堤の試合を見ていて、「このスタイルでいつまで続けられるのだろう?」と考えるのはESPN+のスタッフだけではないのだろう。これほどの激闘を可能にする準備を、どれだけ続けられるのかもわからない。
他ならぬ堤自身も同じ想いでいるのだから。
ADVERTISEMENT
「今までは“井上拓真に勝つ”がすべてで、そこがゴールだった。終わった今は“もういつ終わるか分からない”って感覚があります。ここで負けて、すぐまた頑張ろうって思えるかはわからないし、その熱量でできるかもわからない。仮に転んだ後にもっと火がつく可能性もあるんだろうけど、僕の中では一回転んだら戻れないと思っている。だから挑戦できる間にどんどん挑戦したい。今、走り抜けて、お金も、名誉も手に入るものは全部手に入れたいですね」
「弱い相手とやって長く王座にいるつもりはない」
そういった強烈な願いがあるからこそ、暫定王者ドネアとの防衛戦はもちろん絶対に負けられない。ここで老雄を降しさえすれば、比嘉と引き分けたWBA休養王者アントニオ・バルガスとの団体内統一戦、WBC王者になった拓真との再戦&統一戦、さらにはバンタム級に上げてくる3階級制覇王者・井岡一翔との防衛戦など、幾つもの魅力的なオプションが視界に入ってくる。マッチメイクは「ハードに、ハードにいきたい」と願う堤は、これから先も強豪との戦いだけを目指していくと言い切った。
「勝てる相手とやるより、負けるかもしれない相手とやった方が準備の熱量が違う。時間がもったいないのでちんたらしたくないし、ずっとヒリヒリしていたい。 “強いチャンピオン”でいたい。弱い相手とやって長く王座にいるつもりはないので、どんどん強い相手とやって駆け抜けたいんです」
“1995年組”の中では“遅れてきた男”は、その遅れを取り戻そうとするかのように全力疾走を続ける。いつ終わりが来るかわからない頂点での時間を慈しむかのように、最初から最後までハードに駆け抜ける。12月17日のドネア戦が終わっても、勝ち続ける限り、もうしばらくは立ち止まるという選択肢はないはずだ。
後編では、ドネア戦の展望を本人が明かしている。〈つづく→後編〉

