第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER

「強い相手を倒すのが好き」2年前の涙を乗り越え、國學院大學のキーマンに成長した野中恒亨が虎視眈々と狙う区間新記録 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byShiro Miyake

posted2025/12/25 10:01

「強い相手を倒すのが好き」2年前の涙を乗り越え、國學院大學のキーマンに成長した野中恒亨が虎視眈々と狙う区間新記録<Number Web> photograph by Shiro Miyake

出雲駅伝3区で区間2位など、今季のレースで実力を証明し続けている野中恒亨

 力強い言葉には自信がにじむ。エースの風格さえ漂い始めているが、本人はやんわり否定する。4年生の上原、青木、高山豪起、同学年の辻原輝らと力は変わらないという。

「僕は大黒柱ではないです。支柱の1本」

 駅伝で大仕事をこなしても、目覚ましい記録を出しても、謙虚な姿勢は崩そうとはしない。本人に水を向けると、柔和な笑みを浮かべていた。

「僕は客観的に現実を見ているだけですよ」

 野中は強気な一面をのぞかせても、おごることはない。レベルの高い選手がそろう國學院大に安泰の地位はないと自ら言い聞かせる。ポイント練習もレースも失敗は許されないと、緊張感を持って練習に臨んでいる。「もし外せば、あそこまで落ちてしまうかもしれないので」。ぼそっとつぶやくと、あの日のことが頭をよぎる。2023年12月31日、前田監督の部屋に呼ばれ、そこで告げられた言葉は一生忘れない。

「今回はお前を外す。来年は絶対に走れ」

 当初、7区に名を連ねていたが、“当日変更”のひとりとなり、頭が真っ白になった。その場で一歩も動けなくなり、悔しくて悔しくて、涙が止まらなかった。1年生が5人エントリーされるなか、ひとりだけ出走メンバーから外されたのだ。

「いまでも鮮明に覚えていますね。1年目に箱根駅伝を走っていない過去は、これから先も変えられません。僕の大学駅伝はあそこがスタート。走れなかったけど、『0』が『1』に変わった瞬間だと思っています」

「先導車の後ろを走りたい」

 あれから2年。監督室で涙した野中は、駅伝の流れを変えるキーマンになった。前回の箱根駅伝1区では区間6位とスターターの役割を果たし、今回はたすきを先頭で持ってくることを誓う。

「箱根駅伝では先導車の後ろを走りたいんです。出雲駅伝、全日本大学駅伝で優勝している主力組のほとんどは経験していますが、僕は先頭を走っていない。これは自力で見に行くしかないなって」

 冗談まじりに笑みを漏らしつつも、きりっとした目は本気。すでにイメージはできている。冷静に自身の特長を考えれば、適性区間は下り基調の3区と7区になるという。2区の可能性もあるが、厳しい起伏は得意とは言えない。「上りは弱いんで」と苦笑する。それよりも持ち前のスピードを生かし、前半で突っ込んで前を追える区間に意欲を燃やす。

「そのほうが順位を上げて、チームにより貢献できるかなと」

 第100回箱根駅伝で青山学院大学の太田蒼生(現・GMOアスリーツ)が3区で記録した、59分47秒の日本人最高記録も意識している。

「3区で出走すれば、もちろん狙いに行きます。展開次第ですが、120%の力を出せば超えられないタイムではないと思っています。それで、総合優勝したい。イェゴン・ヴィンセント選手(現・Honda)の区間記録(59分25秒)は4年目ですかね」

 学生トップランナーになっても、好きな言葉は変わらない。「下剋上」。上には上がいるという。「僕は強い相手を倒すのが好きなんです」。國學院大で挑むことに、より価値がある。

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