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野ボール横丁BACK NUMBER
「藤浪が161球投げさせられた」事件…金本知憲の“懲罰采配”、藤浪晋太郎が明かした「あの日のこと」大阪桐蔭で甲子園連覇→阪神エースの“苦悩”
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2025/12/13 11:01
2016年7月8日の広島戦。先発した藤浪晋太郎は計161球を投げた
「野球に生きそうなもの、ザ・メンタルみたいな本はあんまり読まないんです。小説の方がスラスラ入りますね。読みやすいので。最近、いちばんおもしろかったのは本屋大賞を獲った『汝、星のごとく』っていう本です。内容自体もそうですけど、心理描写とかもすごくおもしろくて。心をつかまれる作品でした」
読書家のプロ野球選手というのがそもそも日本のプロ野球界には馴染まないのではないかという気もした。
若きエースに161球もの球数を強いた采配は、さまざまな議論を呼ぶことになる。当時はどちらかというと金本采配に批判的な意見の方が多かったが、このセンセーショナルな懲罰登板は結果的に藤浪に「劣等生」のレッテルを貼り付けることになった。
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「周りもそういう雰囲気で接してくるんですよ。たとえば6回3失点だったとして、昨日は悪いなりに何とかゲームをつくったなと思っていても、次の日の報道とかでは『藤浪ピリッとせず』みたいな論調になる。そうすると、チームの人たちも『気にすんな』っていうテンションで接してくる。グラウンドでストレッチ中に他の人と話しているだけで『そんなことしてる場合か』と言われたり。自分はチームに貢献したいし、勝ちたいっていう思いもあるのに『おまえ、やる気あんのか?』みたいな言い方をされるとね。んんん……。お母さんに勉強しろって言われて、かえってやる気なくすみたいなね」
さらし者にされた——。161球事件に対する藤浪の言葉には、そんなニュアンスが含まれていた。ただ、あの日のことを語る藤浪の言葉には何の感情もこもっていないように感じられた。
この話を聞くのがアリゾナでつくづくよかったと思った。もはや遠い国の、遠い昔の話だった。
「藤浪は生意気で人の意見を聞かない」批判
この161球事件を境に、藤浪は生意気で、他人の意見を聞き入れられないから不調から脱することができないのだといったニュアンスの報道を見聞きするようになる。
だが、私の中の藤浪のイメージと、生意気という言葉のイメージはどうしても重ならなかった。むしろ、生意気だったら、こんなに外野の雑音に悩まされずに済んだのではないかとすら思う。
本人に聞くものではないと思いつつ、聞かずにはいられなかった。なぜ、そう言われるのか、と。
「言われがちなんです。タイガースの風土もちょっとあるかもしれませんね。自分で言うのもなんですけど、鳴り物入りで入ってきて、いきなり結果を出す選手に言いがちというか。基本的にスターが好きな球団ではないのかなという気がします。髙山さんもけっこう言われてましたし」
2016年に明治大からドラ1で入団し、新人王を獲得した髙山俊(オイシックス新潟アルビレックス)は結局、8年間でルーキーイヤーがキャリアハイだった。髙山も最初のインパクトが強烈だったが、徐々に失速してしまった。

