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プロ野球PRESSBACK NUMBER
広岡達朗が激怒「ジャイアンツはここまで落ちぶれてしまったのか?」“巨人との大乱闘”でヤクルトナインが覚醒した日「あんなチームに負けてたまるか」
text by

長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKYODO
posted2025/12/08 11:05
「ジャイアンツコンプレックスの克服」に力を注いだヤクルト監督時代の広岡達朗
シピンは猛烈な勢いで走り出し、マウンド上の鈴木に襲いかかる。すぐさま、一塁を守っていた大杉が援軍に入ると、両軍ベンチから選手が入り乱れ、収拾のつかない状況となった。シピンは退場を命じられ、鈴木も5失点で早々に降板を余儀なくされた。さらに5回には自打球が顔面に直撃し、12針を縫う大ケガで大杉が退場する。大杉の代わりにファーストに入った伊勢も、八回に顔面に死球を受けて途中退場となった。
「ジャイアンツはここまで落ちぶれてしまったのか?」
広岡はこの試合を記憶していた。
「シピンには本当に腹が立った。常に相手ピッチャーを威嚇してくる。だから、ピッチャーには“構わずにインコースを突け!”と指示したし、ファーストの大杉やサードの船田には、“もしもシピンがマウンドに来るようなことがあれば全力で阻止しろ”と命じた」
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その口調には棘があった。今でもシピンのことを苦々しく思っていることがよく伝わってくる。憧れの巨人軍に入団し、「巨人の広岡として死にたい」と訴えてユニフォームを脱いだ広岡は、「ジャイアンツブランド」に誰よりも誇りを持っていた。だからこそ、「ジャイアンツにはいつまでも球界の手本であってほしい」と願い、その巨人を倒すことに執念を燃やしていた。
そんな広岡にとって、シピンの蛮行は許せなかった。「あんな男が、ジャイアンツのユニフォームを着ていていいのか?」「それでも長嶋は、シピンを使い続けるのか?」「今のジャイアンツはここまで落ちぶれてしまったのか?」と憤るとともに、「この試合は絶対に落とせない」という強い思いが芽生えてくる。
その結果、前夜に続いてこの日も、広岡にとっては異例の継投となった。
鈴木が二回で降板すると、「先発ローテーションの確立」を標榜していた広岡には信じられない、なりふり構わぬ継投を披露する。なにしろこの試合だけで鈴木、会田、安田、松岡と先発ローテーションの四本の柱を投入したのである。
しかし試合は7対7の引き分けに終わった。勝てなかった。けれども、負けなかった。序盤に五点をリードされたが、それでも何とかドローに持ち込んだ。

