モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER

たった1シーズンだけの1000ccV4エンジン採用…ヤマハが伝統の直4を捨ててまで狙うものと「まだ始まったばかり」の開発の行方

posted2025/11/22 17:00

 
たった1シーズンだけの1000ccV4エンジン採用…ヤマハが伝統の直4を捨ててまで狙うものと「まだ始まったばかり」の開発の行方<Number Web> photograph by Satoshi Endo

バレンシアでV4エ搭載マシンでのテスト周回を重ねたクアルタラロ

text by

遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

PROFILE

photograph by

Satoshi Endo

 2025年シーズンの最終戦が行われたバレンシアで、来季に向けて最初のMotoGPテストが行われた。注目は、エンジンの形式を直列4気筒(直4)からV型4気筒(V4)に換えたヤマハYZR-M1の走りだった。

 直4ではバレンティーノ・ロッシ、ホルヘ・ロレンソ、そしてファビオ・クアルタラロがタイトルを獲得し、ひとつの時代を築いたが、この数年はV4勢の前に苦戦が続いた。その結果、ヤマハはついに数年前からプロジェクトをスタートさせていたV4へのスイッチを決断。これでMotoGPクラスに参戦する5メーカーが同じ形式のエンジンで戦うことになった。

 V4に移行するために、ヤマハは今季、テストライダーのアウグスト・フェルナンデスをV4仕様のYZR-M1で3戦に出場させた。その結果を踏まえ、ヤマハはバレンシアGPの翌日、来季からV4搭載のYZR-M1でシーズンを戦うことを発表。テストではヤマハの2チーム4人のライダー全員がニューマシンで走行した。

ADVERTISEMENT

 ヤマハ勢のトップタイムを刻んだのは、エースで21年チャンピオンのファビオ・クアルタラロ。15番手だったクアルタラロと総合トップとの差は0.554秒だった。グランプリの舞台としてはショートコースのバレンシアだけにタイム差は接近しており、この結果をどう捉えるかは難しいが、本格的な初テストのスタートとしては可もなく不可もなし、と言ったところだろうか。

ポテンシャルはいまだ未知数

 クラルタラロはV4搭載のYZR−M1についてこう語る。

「(これまで使っていた直4と新しいV4は)あまり変わっていないが、いまはニューバイクのペースを見つけたい。今日はあまり周回できなかったが、少しずつ前進することができた。今日の一番のテストメニューは、このオフになにをしなければならないかをエンジニアたちに伝えることだった」

 可もなく不可もなしというリザルト通り、その表情は期待以上ではないが落胆もせずというものだった。

 チームメートのアレックス・リンスは、「改善しなければならないポイントはあるが、ブレーキングとコーナーの進入に関してはポジティブだった。今日のテストには満足している」とコメント。サテライトチームのジャック・ミラーは、「今日は現状のバイクの評価とこれから取り組まなければならない課題を明らかにすることが一番の目標だった」と語ったが、どのライダーも「ニューバイクのテストはまだ始まったばかり」だということを強調した。

 MotoGPクラスは27年からエンジン排気量が1000ccから850ccに変わる。ヤマハが1000ccで参戦できるのは、わずか1年しかない。そうした大きな変革期を前に、これまで経験のないV4を投入する狙いはなんなのか。おそらく1000ccは850ccの習作として実戦に投入されるにすぎず、本当のターゲットは27年以降にあるはずだ。

【次ページ】 V4の出来が勢力図を塗り替える

1 2 NEXT
#ファビオ・クアルタラロ
#ヤマハ
#アレックス・リンス
#ジャック・ミラー
#トプラック・ラズガットリオグル

MotoGPの前後の記事

ページトップ