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「手を抜くと、また1秒差で負ける」箱根駅伝予選会に2年ぶりに登場した東農大“怪物”エースの苦悩と安堵「おっかないですけど、2区区間賞を取りたい」
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byYuki Suenaga
posted2025/10/20 17:01
2年前の予選会では1年生ながら日本人トップだった前田だが、昨年は体調不良で走れず、チームは1秒差に泣いた
大会前に小さな故障を繰り返し、万全のコンディションではなかったのだ。仕掛けどころで思うようにギアチェンジができず、先に前へ出た筑波大・川崎颯(3年)の背中についた。「他の選手の力を借りるという形になりました」と渋い表情で振り返る。本意ではなかったのだろう。本来であれば、自ら積極的に仕掛けていくのが持ち味。木々に覆われた公園内の起伏を走りながら一瞬、2年前の光景も頭に浮かんだ。
留学生レベルのスーパールーキーと騒がれた2年前
「こんなコースだったし、ここで仕掛けたなって」
1年時に衝撃的な走りを見せた2023年の予選会である。ケニア人留学生たちと互角以上に渡り合い、日本勢のライバルを寄せ付けずに日本人トップでフィニッシュ。当時はスーパールーキーと騒がれた。
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「あのときはバッと前へ行ける余裕がありましたけど、今回はそこまでの余力はなかったです」
それでも、沿道から東農大の仲間が掲げるボードでその時点の順位を確認し、必死に踏ん張った。チーム全体で5番手につけていたが、ここでペースを落とすわけにはいかない。心の中で何度も唱えた。「いまは11番目、1秒差で負けているんだ」。一瞬でも気を抜けば、転落してしまう。ラスト勝負で競り負けても、最後まで腕を振った。日本勢トップの中央学院大・近田陽路から8秒遅れて、1時間2分12秒でフィニッシュ。日本選手では6番手(全体14位)だったが、走り終えたあとの表情はすっきりしていた。
やっぱり、走るのって楽しいな
「いまやれるだけのことは、できました。2年ぶりの予選会はめちゃめちゃきつかったですが、やっぱり、走るのって、楽しいなとあらためて思いました。しんどい先には、きょうのようにチームでの喜びも待っています。ほんと、充実した21kmでした」

