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「すげえいい人だな…」“KIDに勝った男”金原正徳42歳が明かす不思議な縁「もし今、KIDさんがいたら」UFC出場、RIZINで再起…“戦い続けた格闘家”の告白
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長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2025/10/05 11:11
2009年大晦日の『Dynamite!!』で山本“KID”徳郁に勝利した金原正徳。だがその後、日本の格闘技界は「冬の時代」に突入する
「ちょうど 30歳になるタイミングから、UFCを目指して2年間頑張ったんですよ。でも、チャンスは来なかった。流石にちょっと疲れたし、精神的にも限界だった。結婚してジムをやって、シフトチェンジしようってなったんです」
2013年9月の試合を最後に、金原はジムの設立準備をスタートした。11月には31歳になる。UFC参戦のチャンスは、おそらくもう訪れない。人生の方向転換を決めた。
「すげえいい人だな…」念願のUFC出場と“KIDとの縁”
しかし、何が起こるかわからないのが人生だ。2014年6月にジムをオープンさせた金原のもとに、まさかの知らせが届く。9月に開催するUFC日本大会への出場オファーだった。金原は待ちに待ったUFCとの契約を結んだ。
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「最初はKIDさんとユライア・フェイバーの試合が決まっていたみたいなんですよ。ただ、KIDさんが怪我したのでその代役を探していると。そのときに『KIDに勝った日本人がいるじゃないか』ということで、僕がピックアップされたんです」
KIDと金原は不思議な縁で繋がっていた。2009年の大晦日に拳を交えた約2年後のことだ。金原は米国でのトレーニングの仕上げとして、サンディエゴで試合をすることになった。現地での最終調整のためジムへ行くと、そこに偶然KIDがいた。試合の予定を話すと、「応援に行くよ」と約束してくれた。
会場は市内から1時間ほど山を登った野外にあった。試合前には、約束通り会場に訪れたKIDから「寒いからちゃんとウォーミングアップしてね」とアドバイスを受けた。
「すげえいい人だなと思って。そこでもう、すごい好きになっちゃったんです」
KIDとしっかり話をしたのはこのときが最後になってしまったという。KIDは2018年に41歳の若さでこの世を去った。「寂しいですね、やっぱり」と金原は言った。
「たとえば朝倉未来とKIDさん。確かにどっちもカリスマではあるけど、全然タイプが違いますよね。対戦とかじゃなく、もしKIDさんがいたら、朝倉未来とか今の時代の選手たちとどう交わっていたのか。格闘技界に起こす化学反応みたいなのは、ちょっと見たかったなって思います」
2007年のPRIDEの消滅後、後継団体のDREAMや戦極もやがて活動を停止した。PRIDE消滅からRIZINが軌道に乗るまでの約10年間は、日本の格闘技界の「冬の時代」だった。そのころに選手としてのピークを迎えていた金原は「割りを食った選手」という印象もある。しかし本人はそんな見方を笑い飛ばした。
「冬の時代を感じたことはないですね。自分は冬というか、そもそも春を知らないから。最初から時代に恵まれていたわけじゃないし、格闘技を一生懸命やっていただけ。お金が欲しいとか有名になることは二の次で、強くなることが一番だったので」


