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「イノウエを囲む記者が多すぎて…」6年ぶり来日の英国人記者が“井上尚弥”を堪能した名古屋の夜「6000マイルかけて日本に来てよかった」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2025/09/17 11:03

「イノウエを囲む記者が多すぎて…」6年ぶり来日の英国人記者が“井上尚弥”を堪能した名古屋の夜「6000マイルかけて日本に来てよかった」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

試合後、会見に出席した井上尚弥

 2人のスタイルを考えた時、イノウエにとって今回の戦い方がベストだったと思う。前述の通り、MJはカウンターパンチャーであり、対戦相手を見ながら戦うタイプだ。だから前に出てくるタイプには強く、相手を空振りさせ、その隙をついて対価を支払わせるのが得意。もしもイノウエが攻勢に出て、MJを押しこみ、えげつないパワーパンチを打ち込んで仕留めに行っていたら、同時に反撃の機会を与えることにもなっていた。それが今戦ではまったくチャンスすらなかった。

 ボクシングは相手に合わせてやるものであり、“モンスター”はパンチをレーザーのように繰り出し、常に適切な距離を保ちながら試合を進めていった。技術的にもスタイル的にも、イノウエの選択はこれ以上ないほど正しかったと思う。

井上尚弥のジャブは一級品

 印象に残るパンチを挙げるとすれば、序盤からジャブが非常に有効だったと思う。最近のボクシング界ではジャブが過小評価されがちで、いきなりビッグパンチを出す選手も多いが、この日のイノウエのジャブは本当に良かった。

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 あとはボディに打ち込むストレートパンチも効いており、MJを遠ざけていた。試合中、どちらかが明らかにダメージを受けた瞬間は見受けられなかったが、距離は常にイノウエが制御していた。

 2〜3ラウンドのあたりでMJが戦術的に苦しんでいるのが見て取れた。そこで『MJはどうやって流れを変えればいいのか?』と考えたが、明確な答えは見つからなかった。彼がやりたいのは、強烈な一発を当ててイノウエのフットワークを奪い、膝を揺さぶった上で打ち合いに引きずり込むことだろう。ただ、MJは確かに高いKO率を誇ってはいるが、一撃即決というより、時間をかけて追い込んでいくタイプ。一発で試合をひっくり返す可能性は低い。だから序盤ラウンドが過ぎた時点で、私にはこの試合の行方が見えてきた。

 イノウエの終盤のストップ勝ちを予想していたが、長引く試合になるのは想定内。12ラウンドをフルに戦い抜く可能性もあると思っていて、実際にその通りになった。

【次ページ】 「スコットランドから来てよかった」

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