「昔はヤンチャなやつもいた…」東大OB“伝説の弁護士ボクサー”なぜ44歳の今も練習場に？ 令和の東大生にボクシングで伝えたいこと 

　プロの世界では、どうしても越えられない壁に直面した。日本ランカーに歯が立たず、最後まで日本ランキング入りを果たせなかった。挫折を味わったからこそ、寄り添う気持ちも生まれた。ボクシング部に情熱を注ぐ学生たちに助言を送る。

「ケガをすることもあるし、一生懸命に努力しても結果を残せないこともある。いろいろ喜びや悲しみを経験しながら競技生活を終えると思うけど、後悔を残すなよって。東大ボクシング部でボクシングをしていたから今の自分があると思ってもらいたい」

　年齢に抗いながらリングで戦い続けた元プロボクサーの言葉には実感がこもる。

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　すでに現役を退いて7年。体型にそこまで大きな変化は見えない。生き生きとリングに上がり、マスボクシングもこなす。軽やかに足を動かし、学生のパンチをすっとかわしていた。「簡単にもらいませんよ」と元A級プロのプライドをのぞかせる。ただ教えるだけでなく、ボクシングをするのもまだ好きなようだ。本人は首を横に振り、「最近、競技を退いたOBのスパーリングは禁止になって」と冗談交じりに口にするが、周囲の学生たちは笑って受け流していた。入学時から熱心な指導を受けている主将の伊藤は、土曜日に見せる坂本の顔を教えてくれた。

「ボクシングがすごく好きなのは、ひしひしと伝わってきます」

　スーツよりもトレーニングウエアがよく似合う法律のプロは、20歳以上年下の学生たちを見ながらしみじみと話す。グローブを吊るしても、心はリングから離れていない。

「今の自分があるのは、この競技のおかげ。仕事でもたとえ分が悪くても、何とか突破口を見いだして、打開しようという姿勢を持っていますから。ボクシングにも、東大ボクシング部にも、やっぱり育ててもらった思いがあるので、恩返ししたいんです」

　足元はきょうもリングシューズ。冷房がほとんど効かない蒸し暑い道場で練習が始まると、大粒の汗をかきながらミットを手に持ち、主将の力強い左ストレートを受けていた。快挙を成し遂げた東大理系ボクサーは、まだまだ強くなるかもしれない――。〈全3回・完／第1回から続く〉

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