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ゴール直後に痙攣、レース中に嘔吐も…世界陸上35km競歩「意外と涼しいと思ったけど…」衝撃だった“酷暑”の理由は? 明暗分けた「2年越しの暑熱対策」
text by

和田悟志Satoshi Wada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/09/13 18:47
世界陸上男子35km競歩で銅メダルを獲得した勝木隼人。序盤から酷暑の悪コンディションの中で積極的にレースを引っ張った
さらに過酷なコンディションを想定していただけに、思わず口にした言葉だった。
勝負を分けた「2年越し」の暑熱対策
勝木は、21年の東京五輪には出場しているが、世界陸上は19年ドーハ大会以来、3大会ぶり2回目の日本代表だった。
「この東京世界陸上だけを見据えて、この2年間はしっかり準備してきた。他の選手には、暑さ対策では間違いなくひけを取らないなという頭があって、そこがかなりアドバンテージだったかなというふうに思っています」
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こう言い切れるほどの自負が勝木にはあった。
それもそのはず。勝木は2年越しで暑熱対策を行なってきたのだから。
「去年から基本的には涼しいところに行かずに、ずっと暑さ対策をしてきました。去年は、氷やかけ水を一回も取らずに、夏を関東で過ごしました」
「(代表)選考会は確実に通る」という自信があったからこそ成せる技でもあったが、思い切った取り組みと言っていい。本来であれば、北海道や避暑地などで合宿をしたほうが効率の良いトレーニングができたはずだ。
今夏も、7月に2週間ほど菅平高原で合宿を行ったが、8月の夏真っ盛りの時期から今大会を迎えるまでは、拠点としている自衛隊朝霞駐屯地で暑熱に体を馴らしてきたという。
「それで、体がどういう状態になるのか。どれぐらいのペースで押していけるかを分かっていました」
勝木は、スタート直後から先頭を引っ張るなど思い切ったレースをしてみせた。そんなレースを実現できたのも、ちゃんと根拠があってのことだった。
酸いも甘いも噛み分けてきた、経験豊富な34歳。金メダルを狙っていたといい悔しさも口にしていたが、見事に競歩王国の面目を保ってみせた。

