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甲子園の風BACK NUMBER
沖縄尚学の優勝「朝から営業していたバー」「号外を求めて爆走」なぜ沖縄県民は甲子園に熱狂するのか? 地元のオジーに聞いた「応援するのが当たり前さ」
text by

松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byTakarin Matsunaga
posted2025/08/26 11:08
沖縄尚学の甲子園優勝直後、地元紙の号外に殺到する人々。なぜ沖縄はこれほど高校野球で盛り上がるのか?
だれもが手を伸ばして号外をむしり取る光景は圧巻だった。号外を手にした2人組の女性に声をかけると、「沖尚が優勝したから記念だと思って」「そうそう、やっぱおめでたいことだからね。沖尚頑張ったから、野球よく知らないけど」と笑い、隣にいた青年たちが「野球知らんのかい!」と即座にツッコミを入れる始末だ。友人でも知り合いでもないのに、和気藹々とした雰囲気になる。近くにいたオバアが「こんなの書いてるよ」と同じ号外なのに親切に見せてくる。誰もかれもが笑顔に包まれている。甲子園優勝は、掛け値なしに沖縄のみんなを幸せにしてくれる。
実際に現地で優勝の瞬間を味わった沖縄尚学OBの実業家・大城直輝にも、優勝当日に電話をしてみた。
「僕としては2008年、東浜巨(現ソフトバンク)の世代でセンバツ優勝して、夏も深紅の優勝旗を獲れると思っていたので、17年越しの夏の優勝なんです。甲子園は暑すぎて、脱水症状が怖かったのでビールはぜんぜん飲めなかったです。でもお酒を飲んでなかったぶん、いつもより冷静に見られた気がします(笑)」
赤ら顔のオジーが居酒屋で発した“名言”
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夕方になり、公設市場周辺や栄町といった那覇市内の繁華街が優勝お祝いムードで大盛況の様子を横目で見ながら野球好きが集まる馴染みの居酒屋に行くと、大盛り上がりの真っ最中だった。
いい感じで酩酊しているオジーに「お前もこっちに来て座れ」と呼ばれ、隣に座って話を聞かされた。そして、一通り話が終わった時点で、2010年の興南の優勝時と今回の優勝とでは何が違うのかを尋ねてみた。
「お前、そんなこともわからんのか。学校が違うだろ」
えっ、それで終わり?
「難しく考えるな、感じればいいさ。嬉しいときはみんなで喜べ」
ブルース・リーの名言をパクったかのような言葉には、なぜか底知れぬ含蓄と温かみがあった。
さらに別のオジーが割り込んでくる。
「ウチナーンチュは内地で沖縄の名前の人がいれば、知り合いでもないのに自然と親近感がわくさ。その子どもたちが野球を通じて内地で頑張っていたら、なおさら応援するのが当たり前さ」
そんなオジーやオバアが応援する姿を身近に見ている子どもたちも、やがて沖縄代表を応援するようになる。だから沖縄県民はみんな高校野球が大好きになる。自然なことだ。
赤ら顔のオジーから並々と注がれた泡盛が入った琉球グラスを渡された。躊躇なくグイッと一気に飲み干すと、いろいろな意味で胸が締め付けられる思いがした。
優勝の夜の宴はまだまだ続いた。
<前編とあわせてお読みください>


