「釜本さんに聞いてみたかったこと」メキシコ五輪得点王・釜本邦茂が生前に語っていた“準備と予測”「楽にシュートを打てば全部入るっていう感覚に」 

「メキシコ戦の後半に入ってPKを横山（謙三）さんが止めてくれた。あれで私は、勝ったと思いましたね。もしあれを決められていたら分からなかったんじゃないかな。最後のほうは“ハポン、ハポン”って日本を応援してくれて、クリアしたボールがスタンドに行くと、ファンが戻さない。昔はマルチボールじゃないから“もっとスタンドで遊んでおってくれ”と思いましたね。体力的にはみんな厳しかった。（大会が進むにつれて）みんな試合が終わって宿舎に戻ったらすぐに寝ていましたからね。私は、前にいて真ん中に立っていただけだから楽をさせてもらった。しんどいなっていうふりして寝ていましたよ（笑）」

　釜本という人は、インタビューでも弱いところをまったく見せようとしない。周りの頑張りに応えようと、どれほどの重圧がのし掛かっていたことか。楽をさせてもらった、は周囲へのリスペクトから出た言葉であって、釜本自身しんどくなかったわけがない。俺じゃない、周りの人がしんどい――。そう己を掻き立てていった漢の姿を自然と想像できた。

「勝つためには点を獲らないといけない。自分が（点を）獲ったら勝てる。隆さんがパスを出してくれて、みんなが守ってくれる。自分のやるべき仕事は何か。点をどう獲るとしか考えてなかったですよ。

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『お前は点を獲らなきゃいけないんだぞ』とずっと言われ続けてきて、（ナイジェリア戦で）最初の1点を獲ったらスッと肩の力が抜けていきました。肩に入っていた衣紋掛けが取れたような感じ。楽にシュートを打てば、全部入るっていう感覚になりましたよ」

「サッカーはやっぱり闘いですから」

　計り知れない重圧に押しつぶされず、苦しむ素振りも見せず、真っ向からぶつかって乗り越えてあのメキシコでのゴールラッシュがあった。

「サッカーはやっぱり闘いですからね。一人ひとり相手がいる。フォワードはディフェンダーをどう破るか、ディフェンダーはフォワードをどう止めるか。相手に勝っていくことを90分貫き通さなきゃいけないんです」

釜本の引退試合、ヤンマーディーゼル対日本プロサッカーリーグ選抜　©︎Makoto Kemmisaki

　体を激しくぶつけられようが、軸足を蹴られてファウルを受けようが、凛として90分間通して目の前の相手に勝ち続けようとした。その強い信念はすべてゴールにつながっていた。

　自分に勝てないと、相手にも勝てない。誰よりも己に厳しく、誰よりもゴールという責任に向き合ってきた。

　釜本さんは8月10日、肺炎によって天国に旅立った。81歳だった。他の追随を許さない日本代表史上断トツの75ゴール。その偉大さをあらためて噛みしめたい。