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甲子園の風BACK NUMBER
なぜ最強世代の浦和学院は“公立校に敗れた”のか? 34歳監督が語る「イヤな予感した」魔の5回裏に“守備タイム2回”…相手選手は「99%負ける」
text by

樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byYuki Kashimoto
posted2025/07/30 11:06
すでに新チームが指導している浦和学院野球部
「(健大高崎エースの)石垣元気くんとか、ああいう超高校級のピッチャーに対しては、自分たちはやれる。そういう自信はつけさせられたと思うんですけど……」
「弱点だった左投手対策もやってきた」
森監督の声が沈む。
「弱点だった左投手対策もやってきたんです。でもそれを夏の一発勝負の舞台で発揮できるかどうかは、表には見えない“何か”が必要じゃないですか。そこを身につけさせられなかった。甲子園に連れていけなかった申し訳なさと、自分の力不足をいま、ものすごく痛感しています」
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言い訳はしない。「僕の組み立ての誤算と、準備不足だったんです」と。努力も、思いも報われないことがある。「歯車の狂い」でひっくり返されるのが高校野球だ。それでも森監督は、自分の信念を貫こうとしている。
「自分もプレーした父の時代の浦学は、厳しく鍛えて、我慢強い選手を育てることが求められました。でも今の子たちは違う。一人一人の個性を理解して、それぞれに合った伸ばし方をしないと力を発揮してくれません。SNSもあって、情報も多い。なぜこの練習をするのか、なぜこの戦術を取るのか。選手が納得してやることで、本当の力が出ると思う」
対話、傾聴。個性に向き合う。心理カウンセラーの資格を生かした指導にシフトして4年。目に見える結果は出なかったかもしれない。しかしキャプテン・西田瞬は言う。
「中学時代は怒られてばかりで、ただ言われたことだけをしていた。考えることはなかった。それが浦学に来て、新しい世界の野球が始まりました。自分で理解しないと、人に伝えられない、と。コミュニケーションが大事だと思いました。中学までは自分が怒られさえすれば済んでいたけど、周りに伝える力をつけて大学では自分とチーム、両方で結果にこだわりたい」
「悔しいし、虚しいし、情けない」
森監督は「西田は修行僧みたいなやつで、言われたことは忠実に実行できる選手。いい意味でいえば忠誠心がある。でも『自分はどう思ってる』みたいな考え方の育成が足りなかった。これも僕の力不足です」と反省した。
西田は試合後、涙を流しながら森監督の胸に顔をうずめた。その思いの深さに体が震え、血が逆流するほど後悔の念が湧き起こった。
「全国から有望な子たちが集まっているのに、勝てなかったことは自分のせい。言い訳はしません。悔しいし、虚しいし、情けないです。でも諦めたくない。浦学が好きですから」

