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「貴景勝のことばかり考えていた」小学生からライバル関係…「オレら頑張ったよな」元小結・阿武咲が28歳で相撲を辞めた理由
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byJIJI PRESS
posted2025/07/30 11:04
2018年九州場所で初優勝を飾った小結・貴景勝(左)。前頭13枚目・阿武咲も中盤まで優勝戦線に絡み、敢闘賞を受賞した
「小学校時代から勝ったり負けたりして、昔から『あいつには意地でも負けねえぞ』という気持ちで戦っていたし、プロになった後もそのスタンスは変わりませんでした。常に刺激をくれていたし、貴景勝の存在そのものが自分を奮い立たせてくれていた。でも、意識していたからこそあまり仲良く話すことはなかったんです。いや、もちろんめちゃくちゃ好きなんですよ。でも仲良くするのはいつでもできることだし、自分も貴景勝も勝負事になれ合いはいらないというポリシーがあって。お互いにそういう意識を持っていたからこそ成り立っている関係性だった。そういう存在に人生で出会えることが素敵なこと。本当に自分は幸せで恵まれた相撲人生だったなと思います」
引退は電話で報告した。「同じ時代に生きられてよかった」と感謝を伝えると「オレら頑張ったよな」と言葉が返ってきた。
「お互いに今まで自分を褒めることがなかったんです。だからこそ、その言葉で自分も救われたというか、嬉しかった。初めて自分に『お前頑張ったよ』と声をかけてあげられた瞬間でもありました」
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湊川親方は「残ってくれよ。お前みたいなやつが(相撲界に)残らなくてどうするんだ」と慰留した。それでも打越さんの信念は揺るがなかった。
「やっぱりこの仕事をやりたかったので。一度決めたら引きずらないのが自分。“終わり、じゃあ次!”って。相撲は自分の第一の人生だったけど、今は第二の人生を始めたばかり。“0歳”ですよ。自分の可能性も、世の中のことも、まだ全然分かっていないですけど、真っ直ぐ突き進むことだけはこれからも変わらないですね」

