プロ野球PRESSBACK NUMBER

「ちょっと部屋来い!」本塁打王確定も星野監督から飛び蹴り…山崎武司が明かす“天才と凡人の差”「(福留)孝介は怖がってなかった」 

text by

間淳

間淳Jun Aida

PROFILE

photograph byMakoto Kemizaki/Takuya Sugiyama

posted2025/06/08 11:03

「ちょっと部屋来い!」本塁打王確定も星野監督から飛び蹴り…山崎武司が明かす“天才と凡人の差”「(福留)孝介は怖がってなかった」<Number Web> photograph by Makoto Kemizaki/Takuya Sugiyama

中日時代の星野仙一監督と福留孝介。山崎武司が見た“凡人との差”とは

 一方で山崎はスタメンで起用される試合が増えていく。そして、6月に入ると一気に調子を上げる。打率.403、13本塁打で自身初の月間MVPを獲得。レギュラーの地位を確立した。

 本塁打数を順調に伸ばしていた山崎だったが、タイトルへの意識はなかった。シーズン前半から、チームメートの大豊泰昭が独走していたからだ。しかし、大豊がペースを落とし、差が詰まっていく。その間に巨人の松井秀喜も本数を増やし、三つ巴の争いとなる。

朝4時に成績を…頭部死球で狂った打撃

 8月に入ると、山崎は自身初のタイトルに欲が芽生えてきた。毎朝4時過ぎに起きて、自宅に届く朝刊を見るのが日課となった。

ADVERTISEMENT

「当時はインターネットがなかったので、新聞で他の選手の結果をチェックしていました。また、松井が打ったかと。新聞を見て1時間以上、考えていました。考えても何の結論も出ないんですけどね。新聞をチェックした後は、うたた寝していました」

 山崎は打率、本塁打、打点の主要3部門でタイトルを狙える位置につけていた。8月下旬には、1日だけ三冠王に立ったこともあった。

 タイトルをかけた勝負の9月。山崎にアクシデントが起きる。相手バッテリーからの警戒が強くなる中、頭部に死球を受けた。大事には至らなかったものの、打撃の感覚に狂いが生じた。

 打率は大幅に下降し、タイトル獲得は現実的に難しくなった。打点も差をつけられ、照準は本塁打に定められた。

「絶対本塁打打てよ!」「ちょっと部屋に来い」

 中日が残り2試合、巨人はシーズン最終戦となったタイトル争いの直接対決。この時点で39本塁打を記録していた山崎は、松井と大豊を1本リードしていた。試合前、星野に監督室へ呼ばれた。部屋に入ると、先発投手の野口茂樹が立っていた。星野が山崎に問いかける。

「おい、お前は本塁打王を獲りたいのか?」

 山崎は「できれば獲りたいです」と答える。星野は「分かった。野口には松井を全打席で敬遠させる」と話し、語気を強めた。

「その代わり、お前は絶対に本塁打を打てよ!」

 巨人は松井に最多本塁打のタイトルを獲らせるため、1番打者で起用した。中日バッテリーは予定通り、松井とは勝負しない。全打席四球でバットを振らせなかった。山崎のタイトルは、ほぼ確定した。ただ、その喜びや安心感以上の恐怖が試合後に待っていた。

 この試合、山崎は3打数無安打に終わった。星野が厳命した本塁打を打てなかったからだ。ホテルの部屋に戻ると、電話が鳴る。受話器の先は星野。低い声で一言だけ告げられる。

【次ページ】 翌年は成績ダウン…契約更改で「好きにしてください」

BACK 1 2 3 4 NEXT
#中日ドラゴンズ
#山崎武司
#星野仙一
#福留孝介

プロ野球の前後の記事

ページトップ