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落合博満「浅尾で打たれたらしょうがない」中日・浅尾拓也コーチ40歳の今…忘れられない落合監督のコメント「落合さん、僕には何も言わないんです」
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph byHirofumi Kamaya
posted2025/06/07 11:06
中日ドラゴンズ、浅尾拓也・投手コーチ(40歳)。現役引退翌年の2019年から二軍の投手コーチを務め、今季から一軍に昇格
「練習時間も走る量も、全然違いましたね。確かにそこに関しては今とはだいぶ変わっているかもしれないです。それが良かった部分は絶対あると思いますけど……」
現役時代に自身が受けてきた指導や練習方法を押し付けず、価値観をアップデートして指導する側に回る。簡単には出来ないことだが、そこにストレスはないと浅尾コーチは言う。
「今の選手って本当に真面目で一生懸命。適当にやっていたり、飲み歩いているとかなら『ちゃんとやれ!』となるかもしれないですけど、そんな選手はいない。野球に対して真剣に取り組んでいるのは分かりますから。ただ、怖くて腕が振れないとか、逃げるようなピッチングのようなケースはダメだと思いますけどね。戦う姿勢さえ見せてもらえたら、あとの技術なんてものは何とでもなる。みんな挑戦して、修正して、また挑戦して……の繰り返しですからね」
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昨シーズンまで3年連続最下位。優勝はまさに浅尾コーチがフル回転し、中継ぎ投手として史上初のセ・リーグMVPを獲得した2011年以来、すっかり遠ざかっている。
「強いドラゴンズ、見たいですよ。ずっと見たいと思っています。ただ、勝てない中でも他のチームとめちゃくちゃ差があるとも思わないんです。まだ食らいついて行ける距離にはいるので何とか離されないように今はやるだけですね」
忘れられない「浅尾で打たれたらしょうがない」
写真撮影が終わった後、浅尾コーチが慌てて踵を返し、こちらに戻ってきた。
「どうしても言っておきたいことがあって……」
それは5月上旬まで12球団トップの防御率を誇ったリリーフ陣について質問した答えの続きだった。
「選手たちがこうして結果を出してくれるからこそ、こちらも使う幅が広がるんです。普段、勝ちパターンで行かない選手たちも結果を出してくれているからこそ……」
来る日も来る日もマウンドに上がった全盛期。登板過多を批判する声が出るたびいつもかぶりを振り、引退会見では「信用して使ってもらえるのが一番幸せ。それがケガにつながったとは思っていないし感謝している」と胸を張った。打たれた日の翌日、新聞記事で見た落合監督のコメントが心に残っている、という。
「僕には何も言わないんですよ。記事で『浅尾で打たれたらしょうがない』と。その言葉を見た時、もっと頑張らなきゃと思ったんです。だから……選手たちが見て、頑張れるような記事を、お願いしますね」
そう言って頭を下げた。
光の眩さも、闇の深さも宿命と受け止めてきた12年間の現役生活。その先に歩む指導者としての道で、「悲運の右腕」は静かに新しい花を咲かせ始めている。
<《根尾との3年間》編から続く>


