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太田智樹は日本記録を更新。世界陸上の開催地・国立競技場を望むコースを熱狂で包んだ「Tokyo:Speed:Race」とは

posted2025/05/27 11:00

 
太田智樹は日本記録を更新。世界陸上の開催地・国立競技場を望むコースを熱狂で包んだ「Tokyo:Speed:Race」とは<Number Web> photograph by Asics

5km13分30秒の日本記録をマークした太田智樹(トヨタ自動車)

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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Asics

 ゴールデンウィーク真っ只中の5月3日、東京・明治神宮外苑は朝から晩までランナーの熱気に包まれた。

 アシックス主催のランニングイベント「Tokyo:Speed:Race(トウキョウスピードレース)」が開催され、様々なレベルのランナーが国立競技場を望む特設コースで自己ベスト更新に挑んだ。5kmレースの他、ハーフマラソンリレーやファミリーランなども行われ、大人から子どもまで思い思いにランニングを楽しんでいた。

記録ラッシュに沸く中、太田智樹も…

 日が暮れると、世界中から集ったトップランナーの出番。お祭りムードの中にもどこか緊張感が漂い始める。

 エリートレースの5km、10kmは世界陸連の公認レースとして行われ、世界のトップアスリート125人が出場。結果を先に言えば、3つのエリアレコードと10のナショナルレコード、48のパーソナルベストが誕生する記録ラッシュとなった。

 そのナショナルレコードを打ち立てた一人が、エリート5kmに出場した太田智樹(トヨタ自動車)だ。

「こういうレースは初めてだったので、楽しみつつもゆっくり行こうと思ったんですけど……」

 太田は、従来の日本記録(13分37秒)よりも速い13分30秒に設定されたペースメーカーに付いていくつもりだったが、序盤から思わぬハイペースで突っ込んでしまったという。

「ペースメーカーを探すために変にペースを落とすよりも、自分で行っちゃったほうがいいかなと思いました。ブルーのライトが13分30秒だって分かっていたので、それよりは前で走りたいなと思って、目安にしました。

 中盤に他に誰かいたら、もう少し余裕を持てたかなと思うんですけど、一人でしっかりと粘れたのは良かったかなと思います」

 太田が言う“ブルーのライト”とは、LEDライトで走行ペースを示すペーシングライトのこと。昨今トラックレースでは日本でもお馴染みになったが、日本のロードレースで設置されるのは初の試みだった。

 前半飛ばした分後半は少しペースダウンしたものの、単独走になっても、目標に掲げていた通り13分30秒で走り切った。太田は今年2月にハーフマラソンで日本人で初めて60分切りを果たしており、ハーフマラソンに続き、ロードの5kmでも日本記録保持者となった。

「ひとまず自分で設定した目標を越えられた。ここからまた新しい目標が出てくると思うので、一つ一つしっかりクリアできたら」

 今年に入ってハイパフォーマンスを連発している太田は、7月の日本選手権は5000mに出場する予定だ。さらには、この冬には初のフルマラソンに挑むプランもある。

 現状を確認するために出場したTokyo:Speed:Raceできっちりと結果を残し、次なる目標に視線を向けている。

世界陸上内定の近藤、小林も参戦

 今秋の東京2025世界陸上競技選手権のマラソン日本代表に内定している2人の選手も、その開催地・国立競技場を望むコースで行われたTokyo:Speed:Raceに挑んだ。

「2月に初マラソンを走ったので、今はもう一度スピードを強化していくフェーズ。今季のトラックシーズンは主に5000mをやっていきたい」

 こう話す、男子マラソン日本代表の近藤亮太(三菱重工)は、エリートレースの5kmに出場した。「ポジティブな考えができることが自分の武器」と話すように、貪欲な姿勢でこのレースに臨んだ。

「外国人選手のスピードを序盤からすごく感じることができました。そこにしっかりと食らいつきたかったんですけど、今回久しぶりのロードレースで、感覚を確かめながら走ったこともあり、ちょっと物足りないところがありました」

 スピードを取り戻している最中とあって、先頭争いには絡めず14分24秒で28位に終わった。それでも、近藤は前を向く。

「しっかり現状が把握できて、これからの課題も浮き彫りになったので、次のレースに向けてしっかりと調整していって、最終的に世界陸上にピークを持ってこられるような取り組みを行っていきたいと思います」

 不本意に終わったレースさえも、自身の成長の糧にするつもりだ。また、「日本代表に選出された実感はまだ湧いていない」と話していたが、実際に東京の地でレースを走り、心境にも変化があったようだ。

「東京の盛り上がりをここで少し感じることができたので、私自身、応援してくださる人たちをもっと盛り上げられるような走りをしたい」

 近藤はこう誓っていた。

 女子マラソン代表の小林香菜(大塚製薬)は10kmに出場した。6日前にはハーフマラソンで自己記録を約5分も更新する1時間9分09秒の好記録で走っており、そのタフネスぶりに驚かされる。とはいえ、小林自身はTokyo:Speed:Raceを心から楽しんでいた様子だ。

「自分はもともと楽しく走っていた身なので、その気持ちを取り戻したいなっていうふうにも思いました」

 小林は早稲田大学ホノルルマラソン完走会というサークル出身ということも大きな話題を集めているが、実は、この日の日中にはサークル時代の仲間とハーフマラソンリレーに参加した。

「本当に雰囲気がすごく良くて、お昼はお昼で久々に大学時代の友人と楽しくタスキリレーができて、リフレッシュできました。夜は夜でお祭りみたいで、とても楽しかったです」

 小林にとって神宮外苑は、早大在学中に度々ジョグをしていた縁のある場所。電飾に彩られ、普段とは違う景色の中を走り、ランニングの楽しさを再認識していた。

 日本代表として挑む世界選手権の前に、海外のトップ選手と走る貴重な機会でもあった。

「結構ピリッとした雰囲気もありましたけど、スタート前に海外の選手がフレンドリーに話しかけてくださって、同じスポーツをやる人間として、そういうマインドは共通なのかなと思いました」

 こう話すように、物怖じすることなく小林はレースに臨んだ。同時スタートの男子選手のスピード感には驚かされたものの、淡々とレースを進めた。そして、「粘り強さは強み」と言うように、落ちてくる選手を抜き去り終盤にかけて順位を上げていった。結果は32分49秒で15位。

「思ったより体が動きました。最後は川村さん(楓、岩谷産業)の背中が見えていたので、ちょっと悔しい気持ちもありつつ、楽しかったです。後半に強いところは、より強くしていきたいです」

 連戦の疲れも見せず、小林は収穫を口にしていた。

それぞれの走法を後押しするシューズ

 近藤と小林はともに、陸上を始めた頃からアシックスのシューズを愛用してきた。そして、今季、アシックスジャパンとアドバイザリースタッフとして契約し、Tokyo:Speed:Raceには、アシックスファミリーの一員として、それぞれ、新しく登場したアシックスのレーシングシューズで走った。

 近藤が足を入れたのがMETASPEED SKY TOKYO(メタスピードスカイトウキョウ)だ。

「私は歩幅を伸ばして走るタイプなので、スカイが自分の足にフィットしている。スカイを履くと、自分の走りができます」

 こう話すように、実業団に入ってからはずっとメタスピードスカイシリーズを愛用している。

「メタスピードスカイトウキョウは、これまでよりも軽量化されて、すごく軽いっていう印象です。それに、前に進む推進力が増したように思います。しっかりと体重を乗せると、自然に足が前に出るんです」

 新しいスカイにも好感触を得た様子だ。

 小刻みなピッチ走法が特徴的な小林は、もちろんピッチ型に適したメタスピードエッジシリーズを愛用。今回のレースは履き慣れているMETASPEED EDGE PARIS(メタスピードエッジパリ)で挑んだ。

「しっかり反発がありますが、程よい反発なので、足へのダメージがそこまでない。これで42kmを走り切れると感じています」

 レース終盤の粘りという小林の武器を最大限に生かすために、欠かせない一足といえそうだ。

 今秋も、2人はアシックスのメタスピードシリーズで勝負のレースに臨むつもりだ。

METASPEED シリーズの詳細はこちらよりご覧いただけます。