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井岡一翔36歳の左フックでマルティネスが崩れ落ち…“ダウンを奪って敗れた”直後の本音「引退しますと言える感情ではない」現地で見た“意外な表情”
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/05/12 18:00

WBA王者フェルナンド・マルティネスとの雪辱戦に挑んだ井岡一翔。10回にダウンを奪うも、判定負けを喫した
マルティネスがキャンバスに崩れ落ち…KOを狙った井岡
中盤になると試合はより激しさを増した。6回、マルティネスが左右のフックを軸にした荒々しい連打で井岡に迫る。井岡は打たれ強さを発揮し、被弾してもひるむことなく、左ボディで反撃した。
マルティネスは目まぐるしい攻防の中でもしたたかなところを見せる。ラウンド中に攻める時間、休む時間を巧みに使い分け、ジャッジにアピールしながら体力のキープに努めるのだ。休む時間は距離を取って絶妙なタイミングでジャブを突き刺し、カウンターを狙った。井岡としてはマルティネスが休んでいるときに攻めたいところだが、これがなかなか難しかった。
「向き合っていて相手が休んでいるのは分かるけど、ディフェンスだけをしてるときはディフェンスがしやすい。そのときに攻めてミスブローしたくない気持ち、カウンターを合わせられる恐怖もあった。そこの駆け引きを考えながらやって、ズルズルいったところはありました」
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試合は終盤に入ってダイナミックに動く。9回、マルティネスが怒涛の連打で井岡を追い込む。何発かまともに食らった井岡はタフネスぶりを発揮し、ここから左ボディを決めるとマルティネスの動きが一瞬鈍る。さらにボディ攻撃で畳みかけると、アリーナが一気に沸いた。試合後、マルティネスは「ボディは(肘で腹を隠す動作をしながら)防御していた。顔面のほうがパンチをもらった」と説明したが、ボディを嫌がっていたのは間違いないだろう。初めてクリンチを使ったのはその証のように見えた。
迎えた10回、この試合最大の山場が訪れる。意を決した井岡がワンツーと返しの左フックでマルティネスに迫ると、右の相打ちから井岡の左フックがきれいにヒットし、マルティネスがキャンバスに崩れ落ちたのだ。井岡は渾身のガッツポーズ。アリーナは割れんばかりの大歓声に包まれた。
井岡はここからノックアウトを狙った。しかしさすがに打たれ疲れたのか、猛攻は長く続かない。マルティネスの回復は早く、再び右を好打して立て直した。11、12回は両者ともに最後の力を振り絞っての打撃戦だ。試合終了のゴングと同時にマルティネスが右手を、井岡が両手を天井に突き上げた。