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「アイツには勝てない…」クイズ王・伊沢拓司の自信をへし折った開成“もう一人の天才”…異次元の記憶力で「史上最強のクイズプレーヤー」になるまで 

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別府響

別府響Hibiki Beppu

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photograph byL)本人提供、R)Keiji Ishikawa

posted2025/05/14 11:01

「アイツには勝てない…」クイズ王・伊沢拓司の自信をへし折った開成“もう一人の天才”…異次元の記憶力で「史上最強のクイズプレーヤー」になるまで<Number Web> photograph by L)本人提供、R)Keiji Ishikawa

王者として君臨していた伊沢拓司の自信は、青木寛泰の覚醒により揺らいでいく――

 それは純粋な競技クイズの実力とは「少し違ったと思う」と青木は振り返る。

「クイズの実力的には五分五分だったと思いますよ。でも、終盤になると伊沢さんが自滅する――そういうケースが多かったんです。焦っているというか……そんな感じで」

 青木が感じていた通り、当時の伊沢の心の持ちようが勝敗に影響していたのは明らかだった。

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 高1で『高校生クイズ』で優勝したことで、クイズ界隈の外の人たちからは「クイズの天才」という目で見られるようになった。だが、現実では後輩に追いつかれ、肩を並べられようとしている。

「あれ、もしかして伊沢って、青木より弱いんじゃない?」

 その現実が、競技クイズに造詣の深い人であればあるほど、見え始めていた。

 そして、そんな事実を指摘されることは、それまで勝ち続けてきた16歳の青年にとってあまりに恐ろしかった。後方から猛スピードで迫ってきた本当の“天才”の存在を、伊沢はなかなか認められなかった。

「なまじ青木の背景にある練習量を知っている分、圧倒的に“努力できる力”が違うのが分かるわけです。昔の弱点を克服して、とにかく勝てるスタイルになってきたというのも感じてしまった」

王者だったはずの伊沢の自信は、へし折られていた

 伊沢はどちらかと言えば反復練習が得意ではない方だった。

 それよりも、友人と遊び、学業に勤しむなかで新しい知識を吸収することが好きだった。そしてそれがそのまま、クイズの力のベースにもなっていた。もちろんそれは、クイズの正しい楽しみ方の延長ともいえる。

 翻って青木は前述のように、ひたすら数をこなすことで、他人の覚えている問題を覚え、そして何度も何度も早押しをして体に刷り込んでいった。

「この問題は、このポイントが来れば押せる」「このキーワードが出たら押せる」

 それを反射的に動けるレベルまで体に覚えこませる。甲子園で優勝するため千本ノックを受け続けるような、まさにスポーツ的な手法でクイズを攻略しようとした。

 そして、その体に刻まれた練度は、異常な安定感を生んだ。

 普通のプレイヤーはジャンルの得意不得意がある。出題傾向によって、大会ごとの結果にバラつきが生まれるものだ。だが、青木にはその不安定さが一切、なかった。局所的なジャンルを見れば青木がリードを許すシーンはある。だが、終わってみれば勝つのはいつも青木――そんな状況が続いた。

 そして結果的にそんな強さは、王者のイスに座っていたはずの伊沢の自信をへし折ってしまった。そして、この頃を境に2人はすこしずつ、クイズの場で距離を置くようになっていった。

 翌2011年の8月。青木という天才の存在が世に知られることになる「運命のabc」が開催されることになる。

<次回へつづく>

#3に続く
「毎日6~7時間クイズ漬け」でも現役で東大合格→医学部に…全国大会で初の中学生優勝“史上最強の天才少年”が「クイズの深淵」に落ちたワケ
この連載の一覧を見る(#1〜4)

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