「俺が『使うな』と言えば、どの球団も…」“巨人4位指名を拒否→ドラ1でプロ”を目指した異色選手の物語…心を折られた「球界の寝業師」からの一言 

　瀬戸山は、その要請を断った。

「なんか、西武の若手選手のカンフル剤みたいな扱いをされているようで、その時はちょっと乗り気になれなかったんです。それよりも、都市対抗の出場に向けて準備をしたかった。前の年に初めて出て、会社の大応援に感激してね。『もう1回、あの大舞台で試合をしてプロに行きたい』と思ったんです」

　ここが瀬戸山にとって、プロに入る最大のチャンスだったのかもしれない。

同期が続々とドラ1指名…出始めた「焦り」

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　プリンスホテルでは扇の要として君臨できていても、監督の石山建一から“自衛隊”と揶揄されていたように「守備の人」から脱却できずにいることも自覚していた。

「自分としても『欠点は打てないことだ』とわかっていても、努力しなかったですから」

　その間にも同期の選手が続々とプロへ巣立っていく。自分と同じように80年のドラフトで阪急1位を拒否した川村一明、日本ハム1位を蹴った高山郁夫が西武に入った。入社直後のキャンプで「こいつのパワーはすごい」と度肝を抜かれた藤井康雄も、86年に阪急から4位で指名された。

　20代も半ばに差し掛かろうとしていた瀬戸山が、焦り始める。あれはおそらく、7年目のシーズンだったと記憶している。

「プロに行きたいです」

　プリンスホテルの幹部に自らの思いを打ち明けると、話の場を設けてくれるという。そこに同席したのは、根本陸夫だった。

プロ野球界で何度も常勝軍団を築いた「球界の寝業師」こと根本　©JIJI PRESS

　西武の初代監督であり、退任後は現在で言うGMにあたる管理部長となった。伊東勤や秋山幸二ら素質ある高校生の“一本釣り”を実現させた辣腕ぶりから、「球界の寝業師」として大きな力を持つ存在だった。

　話し合いの席で瀬戸山は、根本から“大人の現実”を突きつけられる。

「プロなんていつでも行けるけど、試合に出てなんぼの世界だからな。俺が『使うな』と言えば、どの球団も使わんくなるぞ。それでもお前、行く気あるんか？」

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