プロ野球PRESSBACK NUMBER
「あんな打球見たことない」事故死のトニ・ブランコ…中日時代の仲間が振り返る「伝説の一撃」とナイスガイの素顔「ある日トウモロコシの種を持ってきて…」
text by

渋谷真Makoto Shibutani
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/17 11:02
中日などで活躍したトニ・ブランコ。悲劇的な事故の犠牲になった
苦楽をともにした名物通訳の桂川昇さんは、ある日ブランコさんがトウモロコシの種を持ってきて「これを投げてくれ」と言って、小さな粒を打つ練習が始まったことを思い出していた。豪快な本塁打と三振が共存していたブランコさんは、きっとボールの芯を射貫くトレーニングをしたかったのだ。納得がいかなければ深夜まで球場に居残って練習した。そんなまじめな一面だけでなく「スーパーに買い物に行って、乗っていた自転車を忘れて帰ってきたこともあるんです」という微笑ましい失敗談も覚えていた。
どこまでもいいやつ。そしてどこまでも飛ばせる伝説を持つ凄いやつだった。中日時代のチームメートに「俺が選んだブランコベストホームラン」を挙げてもらった。
驚愕の認定本塁打
【認定本塁打】 2009年5月7日の広島戦で、事件は起きた。前田健太の141kmをすくいあげると、打球は何とドーム天井のスピーカーを直撃。グラウンドルールで、ナゴヤドーム初の認定本塁打となった。このスピーカーは、ホームから85mの距離で、高さは50m。観客向けのサービスとして飛距離を表示していたが、着弾地点が不明のため推定もできず。国内屈指のピッチャーズパークとして知られる同ドームでは、その後も認定本塁打は出ていない。
ADVERTISEMENT
ブランコさんの規格外のパワーを象徴するこの一発は、多くのファンの記憶にも刻まれいる。ところがともに戦ったかつての仲間は「あれもすごかったが、もっとすごいのがある」と言わんばかりに、ベストホームランを語ってくれた。
5階席までぶっ飛ばし…
【あいさつ代わりの5階席弾】 認定本塁打の18日前(4月19日)のことだった。ナゴヤドームでの巨人戦。高橋尚成のスライダーを、左翼5階席までぶっ飛ばした。推定飛距離135mのこの一撃を推したのは、当時の絶対クローザー・岩瀬仁紀さんだった。
「当然、僕はロッカールームかブルペンのモニター(打ったのは3回)で見ていました。もう来て早々のあれでしょ。僕の中ではあの5階席ですね」
前年まで4番に君臨していたタイロン・ウッズが退団した。福留孝介もすでに大リーグへ移籍しており、投手陣としては少しばかり不安を感じていたのかもしれない。どんなものかと新たな4番を値踏みしようとしていたら、驚愕のビッグアーチ。伝説のクローザーのハートを射貫いた軌道だった。


