将棋PRESSBACK NUMBER
名人・藤井聡太“AI超え終盤力”発動に騒然「どれだけ研究してるのか」序中盤も強烈なのに…「超難問・詰将棋解答選手権で異次元の全問正解」
text by

田丸昇Noboru Tamaru
photograph byNumberWeb
posted2025/04/17 06:00
名人戦第1局で先勝した藤井聡太名人。詰将棋解答選手権を含めて持ち前の終盤力が“AI超え”の凄まじさを見せている
名人戦第1局で恒例の「振り駒」が行われ、永瀬九段の先手番に決まった。持ち時間は各9時間。2日目の17時から30分の夕食休憩があるのが、ほかの2日制タイトル戦(竜王戦、王位戦、王将戦)との相違点となる。
永瀬の初手▲2六歩に対して、藤井の2手目が注目された。藤井は2016年のデビュー戦以来、約250局の後手番で飛車先の歩を突く△8四歩を必ず指してきた。しかし直近の王将戦第5局で、角道を開ける△3四歩を初めて指した。永瀬との以前の練習対局ではその手を指したことがあるが——経験の少ない形で指すのは、大きな意味があると思ったという。
藤井は名人戦第1局で、王道の一手の△8四歩を指した。その後、お互いに実戦経験が多い角換わり腰掛け銀の戦型に進んだ。永瀬は4筋に桂を跳ねて開戦した。すぐに桂損したが、代償として馬(成り角)を作った。
ADVERTISEMENT
その局面は、3月2日に行われた第50期棋王戦コナミグループ杯五番勝負(藤井棋王ー増田康宏八段)第3局と同じだった。棋王戦で先手番の藤井は、名人戦では増田側を持って指した。角換わり腰掛け銀は事前の研究を生かしやすい。同じ戦いの展開を、先手番・後手番でともに指すことは珍しくない。なお棋王戦は後に同一手順が繰り返され、無勝負の「千日手」となった。
どれだけ研究しているのか…さらに驚きは終盤だった
永瀬は棋王戦とは別の手を指して後手陣に攻め込むと、藤井は9手後に△8八歩と桂取りに打って反撃した。終局後の感想によると、その局面までは研究範囲だったという。
第1局では開始直前まで先後は未定で、戦型の選択は少し迷うところ。さらに研究対象にしにくい「千日手」になった実戦例で、永瀬の指し手を予測したうえに深掘りするとは――藤井は日頃からどれだけ研究しているのかと驚くばかりだ。
永瀬は終盤の局面で、2筋の飛車を8筋にいる玉の守りに利かす手を指した。落ち着いた好手に見えたが、実際は疑問手だったという。藤井はその隙をついて攻め込んだが、寄せを続行せずに△8一飛と逃げる手を指すと、控室では予想外の手として驚きの声が上がり、騒然となったという。永瀬は厳しい寄せで迫り、藤井の玉はかなり危険になった。
しかし、藤井は永瀬の寄せをぎりぎりまで引きつけると、持ち駒の桂が2枚に増えた状況で一気に詰めにいった。
第1図は桂の王手を打った部分図の局面(※外部配信でご覧の方は【関連記事】からご覧になれます)。その2手前に37分の長考ですべて読み切っていた。
藤井は豊富な持ち駒と盤上の大駒を駆使して、第1図からほぼノータイムで王手をかけ続けた。そして25手後に角の王手で永瀬を投了に追い込んだ。
藤井が見せた“AI超え”終盤力の内実
名人戦第1局は藤井名人が134手で勝った。終局時刻は20時55分。残り時間は、藤井23分、永瀬1分。
両者は終局後に終盤の攻防について、次のように語った。


