濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
武尊“早すぎた1分20秒KO負け”はなぜ起きたのか?「先のことは考えてない」試合後の本音… SNSでは「限界論」も、本当に考えるべきキャリアの本質
text by

橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byONE Championship Susumu Nagao
posted2025/03/24 17:24

ロッタンの左フックを被弾しダウンした武尊。カウントアウトとなった瞬間
敗戦は“限界”を感じさせるものだったか?
インタビュースペースで進退に関する質問があったように、「やめないでくれ!」と叫ぶファンがいたように、今回の負けで武尊の“限界”を感じた者は多かったはずだ。反応が悪くなっている、打たれ弱くなっているという声も聞く。
KO勝ちした前戦でも、武尊は不用意にパンチをもらいダウンを喫している。33歳、プロキャリアは50戦近くになった。そのすべてが打ち合いだ。ダメージの蓄積があって当然。負けるのもおかしなことではない。
元K-1王者の卜部功也は、上京当時からの武尊の兄貴分。一時期は練習、試合、プライベートすべてに接してきた。那須川戦のセコンドにもついている。その卜部は、武尊がK-1で3階級制覇した戦績を「異常」だと評している。
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「武尊の闘い方は(真っ向からの打ち合いで)凄くリスキー。なのに天心くんとの試合まで(公式デビューから)40勝1敗ですか。ちょっと異常ですね。神がかりです。どこで負けてもおかしくないのに勝ってきた。マイク・タイソンだってできなかったことです。たぶんああいう倒すスタイルでこのレコードっていうのは、世界的にも2度と出てこないんじゃないかと思いますね」
打ち合いは隙が生まれやすい。そのファイトスタイルからすれば、武尊は“戦績的には勝ったり負けたり、しかし勝っても負けてもインパクトを残す人気選手”でもおかしくなかった。なのに勝ち続けた。
雑な「ネットの意見」ではなく…
今の武尊は、そんな“異常”な状態から、少しだけ“普通”に近づいたのだとも言える。しかも今回の相手は世界最高峰のムエタイ戦士であるロッタン。負け=弱いではないし、短時間で負けたから情けないということもない。そこは相性もあるし、打ち合いにいったからこそパンチをもらったのも間違いない。
反応、踏ん張り、ハンドスピードや圧力でロッタンが上だった。しかしロッタンが規格外の選手であることも忘れてはいけない。武尊の右ストレートがヒットする場面もあった。
SNSユーザーはその場ですぐに、無責任に答えを出そうとする。弱かった、もう限界だと。東京ドームを超満員にした那須川戦によって、武尊の知名度はK-1時代以上に上がった。しかしその時点でキャリアは終盤、歴戦のダメージもある。全盛期ではない姿だけを見てあれこれ言う者も多いということになる。要は雑な「ネットの意見」も増える。
しかし、だ。武尊がファイターとして本当に“限界”なのかどうかは落ち着いて、時間をかけて考える必要がある。
もちろん逆のことも言える。つまり簡単に現役続行を求めるのも酷だということ。頭部への打撃がある格闘技では脳にダメージがたまる。激闘の裏側には死の危険性が常に貼り付いている。答えを出すのは、あくまでも武尊自身だ。
彼にいま必要なのは、何よりも休養だ。進退については、休みながらゆっくり考えればいい。