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「今の僕がやるべきことは…」世界水泳で金メダル→パリ五輪で予選落ち…日本競泳界のエースが見た“天国と地獄” 復活の「超意外なキッカケ」は?
text by

田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byJIJI PRESS
posted2025/03/23 11:03

直前のドーハ世界水泳で金メダルを獲得し、満を持して臨んだパリ五輪はまさかの予選落ちに。本多灯はいかにその挫折から立ち直ったのか
「まだまだ冷静さを身につけるのには道のりは遠いと感じています。でも、少しずつ気持ちの余裕は持てるようになっていますし、頭には常に冷静さを保つという意識はあります。自分を分析して、何が必要なのか、今何をやるべきなのかを明確に見つけ出すこの冷静さがあれば、競技生活だけではなく、その後の社会人としての生活においてもプラスになると思っています。だから、2025年はこの冷静さを追い求める1年にしたいんです」
そう話す本多だが、世間は許してくれない。
「東京五輪メダリストがパリ五輪で挫折。ロサンゼルス五輪でのリベンジに向けて再始動」という見方が大半であろう。先に本多が話した、冷静さを身につける1年にしたい、という本多自身が目指したい2025年の目標と、世間が2025年の本多に求めるものとのギャップは、かなり大きな開きがあるのではないか。
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「うーん……。語弊があるといけないんですけど、良い意味で自分の道を貫いて良いと思っているんです。確かに、サポートしてくれる会社や応援してくれるファンの方々に対して、もっと結果を出していかないといけない、という思いはあります。でも、今の自分としては、もっと自分にワガママになっても良いんじゃないかな」
やるべきことは「期待に応えることではない」?
少し目を伏せ、じっくり考えながら、ゆっくりと話を続ける。
「世間の人たちが僕に対して思うことは事実ですし、それも正しいことだと思います。だからといって、僕の考え方が間違っているわけじゃない。たぶん、“今の僕”がやるべきことは、世間の期待に100%応えることではない、と思います」
確固たる、自分を感じた。今までの本多灯という選手は、潮流に乗り自分を奮い立たせ、ただ目の前のことをひたすらに頑張り抜く。そういう意志の強さがあった。
だが、パリ五輪という大きな壁を目の前にして、それだけでは乗り越えられない事実を突きつけられたとき、本多は迷いと焦りを感じ、挫折を味わった。