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藤井聡太八冠復活を阻止+A級復帰「平成の怪物」糸谷哲郎36歳が今、再びアツい「国立大学院卒…父も東大卒」「哲学で人生の究極の価値を」
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph byHiroshi Kamaya
posted2025/03/13 06:00

藤井聡太七冠の叡王戦挑戦阻止に、順位戦A級復帰。今、糸谷哲郎八段が絶好調だ(2023年撮影)
糸谷は07年4月に国立大学の大阪大学文学部に入学。後年に大学院に進学し、ハイデッガーの哲学を専攻した。
糸谷はプロ公式戦で大活躍した。竜王戦は3期連続で3組に昇級。順位戦はC級2組で5期滞留したが、以降は着実に昇級していった。早見え早指しの強さを発揮し、2009年・10年度のNHK杯戦で準優勝した。
半端ない反則伝説のち…森内を破って竜王獲得
その一方で、豪快な反則を犯したことがある。
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07年のある対局の終盤戦でのこと。糸谷は▲7八同玉で馬を取り、△2八飛の王手に▲8七玉と逃げる読みだった。しかし▲7八同玉で馬を取ると、続けて▲8七玉と指したのだ。つまり頭の中で△2八飛が抜け落ちていて、「二手指し」の反則負けとなった。次の予定手と現実を取り違える反則は稀に生じる。それにしても「怪物」らしい半端ない反則だった。
2014年の第27期竜王戦七番勝負で、糸谷七段(当時26)は挑戦者決定三番勝負で羽生善治名人(同44)を2勝1敗で破り、森内俊之竜王(同44)への挑戦権を得た。タイトル戦に初登場した糸谷は、「2日制で長時間の対局は楽しみ。独創的な将棋を指したい」と抱負を語った。
森内竜王-糸谷七段の竜王戦第1局はハワイで行われた。糸谷は記者会見で将棋と哲学の関連を問われると、「哲学の勉強によって自分の先入観をなくし、物事を多角的に見れます」と語った。海外対局、各8時間の持ち時間、和服着用という初めて尽くしの状況で、糸谷は初戦に勝利した。そして3勝1敗とリードし、竜王獲得まであと1勝と迫った。
第5局で糸谷は森内の猛攻で守勢を余儀なくされた。第2図は終盤の部分局面で、糸谷の穴熊囲いは銀4枚というかなり珍しい形になった。森内は秒読みに追われて寄せを誤り、糸谷が逆転勝ちして初タイトルの竜王を獲得した。
広島県出身の棋士のタイトル獲得は、1958年の升田幸三名人以来、56年ぶりのことだった。
2015年1月に開かれた糸谷竜王の就位式で、糸谷は「七番勝負を振り返ると、粘った結果の幸運もあって竜王を獲得できました。今後は竜王として、実力を高めていきたい」と挨拶した。なお就位式には両親が同席し、父親は東大出身で理工系会社に勤務。母方の祖父は大学教授と、学術一家である。
近年は苦戦していた中、8連敗の藤井相手に…
しかし糸谷は2015年に竜王戦で失冠。16年に王座戦、21年に棋王戦で挑戦し、いずれも敗退。順位戦は5期連続でA級に在籍したが23年に降級。この10年間は勢いが今ひとつだった。
そんな中で迎えた2025年2月25日。叡王戦準決勝で藤井七冠と糸谷八段が対戦した。