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『鬼レンチャン』で話題を集めた上谷沙弥が告白「300m走の練習の時から泣いていた」“敗者引退マッチ”に挑む人気悪役レスラーの切実な願い
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2025/03/06 11:04
3月3日、中野たむとの「敗者退団マッチ」に勝利した上谷沙弥
「敗者引退」という切り札
3.3後楽園での上谷vsたむは、この2人にしかできないであろう激しい攻防が続いた。たむの雪崩式タイガースープレックス、上谷の断崖式(エプロンから場外に落とす)フランケンシュタイナーなどは特に難易度、危険度が高く「この相手なら受けられる」という信頼関係がなくては使えない。上谷とたむは悪い意味だけでなく“特別な関係”なのだ。
たむは元アイドル。上谷もアイドル志望で「バイトAKB」という企画のメンバーだったことがある。スターダム発のアイドルグループに所属していた上谷をプロレスに誘ったのもたむだ。
「プロレスに引き入れたのは私なので。上谷のことを語り出したら3日くらいかかっちゃいます(苦笑)」
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たむは「負けたら即引退」という言葉も使っていた。オリジナルは『橋本真也34歳、小川直也に負けたら即引退! スペシャル』。2000年4月、新日本プロレスが久々にゴールデンタイム特番で放送されることになった際のタイトルだ。敗者引退という残酷な試合を切り札に、新日本プロレスは世間との勝負(地上波ゴールデンタイム)に打って出たとも言える。
今回のスターダムも同じだろう。地上波中継が発表されているわけではないが、横浜アリーナでのビッグマッチとなれば女子プロレスファン以外へのアプローチが必須だ。スターダム社長の岡田太郎は、後楽園大会の総括コメントでこう言った。
「全責任は会社、いや私が負います。選手の気持ちを茶化すのではなく、何かありましたら私にぶつけてください。今はプロレス界の注目だけでなく、その殻を破ろうという覚悟で選手たちはやっています。多くの人に見ていただきたい。もう見ない、つまんない、そう言われる方もいると思います。でも見てください。つまらないという声は私にください。そして(試合を)見てください。まだ見たことがないという方も見てください」
「今度は試合がプロレス界の“外”まで届くはず」
たむは「横浜アリーナに1万人集めるためなら、私は何を言われてもいい」。かつて日本武道館でジュリアと「敗者髪切りマッチ」を行ったたむだが、今はその時以上の熱量をファンから感じているという。
そして上谷もまた、世間を強く意識している。
「横浜アリーナで赤いベルトをかけて、さらに引退もかける。そのことで女子プロレス史上最大の一戦ができると思う。そこまでやれば、今度は試合がプロレス界の“外”まで届くはず」
世間の人たちにプロレスを見てほしいと泣いた『鬼レンチャン』と何も変わらない。プロレスはスポーツでありエンターテインメント。より面白く見せるための“演出”も、選手の自己プロデュースもある。だがその奥底にある“リアル”に触れることこそが醍醐味でもある。



