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壮絶ダブルKOにファン熱狂「あの日のヤングライオン」辻陽太とゲイブ・キッドが“新日本プロレスの中心”になるまで「昭和の名勝負数え唄のように…」
posted2025/02/21 17:22

ゲイブ・キッドのO-KNEEと辻陽太のジーンブラスターが交錯した瞬間。2月11日、エディオンアリーナ大阪
text by

原悦生Essei Hara
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Essei Hara
時間はだいぶ過ぎたが、2月11日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)の新日本プロレスは「同じ空間にいてよかった」と会場にいた人が感じたであろう大会だった。配信で見た人も「会場で見たかった」と思っただろう。しばらく飲み屋でもプロレスの話題は「大阪はよかったねえ」で始まることが多かった。
ヤングライオン時代から続く辻とゲイブの物語
大阪はいろんなものが織り込まれた9試合で、目当ての試合は人それぞれだろうが、私が見たかったのはセミファイナルで行われた辻陽太とゲイブ・キッドのIWGP GLOBALベルトをかけた一戦だった。辻がチャンピオンでゲイブがチャレンジャーだが、ゲイブもSTRONGのベルトを保持している。
ゲイブは1月5日、東京ドームのケニー・オメガ戦の激闘で大ブレイク。支持するファンが急増中だ。荒くれものだが、芯がある。「Go for broke」をそのまんま体現している男だ。
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ゲイブは入場で満員の客席をかき分けるように進んだ。黒いショートタイツに白いライオンマーク。もうアドレナリンがいっぱい湧き出ている。
一方の辻は静かに花道に立った。最初はシルエットだった。花道を途中まで進むと、赤いガウンを後方に脱ぎ捨てた。ロングのパンタロンではなく、辻はこの試合に新しいショートタイツを選んだ。色は黒ではなく、赤だったが、それは辻の意思表示なのだろう。
「オマエは他のLA道場の3人と違って、ずっと日本に残り続けて一緒にトレーニングをした。オレは前にも言ったが、オマエは他のLA道場生とは違う。もっと野毛道場寄りのヤングライオンだと思っている」
辻がゲイブに向けたこの言葉は2020年のものだ。コロナ期の話だ。ゲイブはLA道場ではなく、野毛の道場で過ごしていた。新日本プロレスの興行は2020年2月26日の沖縄大会を最後にストップしていた。110日間も中止されていた試合が再開されたのがその年の6月15日だった。もちろん無観客で、これまでプロレスが開催されたことがなかった都心の会場で行われたが、会場名も伏せられて『Together Project Special』と銘打たれていた。
試合前のリングでは棚橋弘至を中心に新日本のライオンマークのジャージーを着たレスラーたちが並んでいた。その中にゲイブと辻もいた。