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「藤井聡太さん級になるには言葉を捨てて…」悲痛な本音から5カ月後の3連敗「感想戦でいつも以上に笑顔だった」永瀬拓矢が再び“激白80分”
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/02/11 06:00
永瀬拓矢九段が藤井聡太七冠に挑んでいる王将戦。第3局の後、記者が聞いた「80分間の本音」、その内容とは
主催紙のフラッシュインタビューが始まった。藤井が話をする間、永瀬は右手を頬に当ててうつむいたまましばらく動かなかった。
永瀬の番になった。優勢という手応えを持っていたようだが、どこで悪くなったのかという話は出なかった。一局の総括を求められると、「終盤でちぎれてしまったのと、経験値が足りていない部分があるなと感じるところがありました」と普段と変わらない口調で語った。
フラッシュインタビューを終え、両対局者は大盤解説会場へ車で向かった。ファンへの顔見せだ。そして対局場に戻って感想戦を行う。私は対局場の控室で待機することにした。スマホのメールアプリを起動して、永瀬宛に取材依頼のメールを書いた。簡潔な文章を心掛け、ひとまず下書きに保存した。送るのは感想戦の後でいい。
感想戦、尊敬する藤井の前でいつも以上に笑顔だった
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永瀬はどんな手痛い負け方をしても、感想戦は朗らかだ。ただこの日はいつも以上に笑顔が多い気がした。尊敬する藤井が相手ということもあるだろうが、それは昨年の王座戦の時も同じである。
いよいよ急所の局面に差し掛かった。緊張が走る。すると藤井が「先ほど聞いたんですけど」と小声で言ってから、▲6二銀不成について言及した。藤井は大盤解説会への移動の最中に立会人の青野照市九段からこの手を知らされたという事実が、その日のうちにモバイル中継に記された。さすがの藤井でも見えていなかったのだ。
検討手順が並べられてしばらくすると、永瀬が「不成(ならず)、不成(ならず)」と噛みしめるように繰り返していた。その後も感想戦は和やかな雰囲気で、笑い合うシーンも何度も見られた。
メール送信から4分後、永瀬から返信が
午後8時25分に感想戦が終わると、私はすぐに対局場を出た。西国立駅で南武線に乗車するとスマホを取り出し、取材依頼のメールを祈るような気持ちで永瀬に送った。
中央線に乗り換える立川駅までは1駅だ。腹が減っていることに気づいて駅の売店で弁当を購入した。その際にスマホを取り出すと、永瀬からメールが届いたとの通知があった。あとで確認すると、私が送ってから4分後の返信だった。〈つづく〉

