Sports Graphic NumberBACK NUMBER

「まずいレベルにある」気候変動問題に、スポーツ界はどう関われるのか。五郎丸歩が、専門家・平田仁子に聞く

posted2025/02/21 11:00

 
「まずいレベルにある」気候変動問題に、スポーツ界はどう関われるのか。五郎丸歩が、専門家・平田仁子に聞く<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

初顔合わせだが、お互い関心が募っていた五郎丸歩さんと平田仁子さん

text by

井本直歩子

井本直歩子Naoko Imoto

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

異色の対談が実現! 元ラグビー日本代表の五郎丸歩さんと、気候変動問題の第一人者である平田仁子さんが、「まずいレベルにある」気候変動の現状と、スポーツ界に何ができるのかについて話し合った。司会は、元競泳選手の井本直歩子さんが務めた。

――最近、環境や気候変動問題の活動に熱心に取り組み始めている五郎丸さんが、興味を持ったきっかけの一つが、平田さんの講義だったとお聞きして、この対談が実現したんです。

平田 そうなんですか?

五郎丸 正直、最近までは環境とスポーツってあまり関係ないと思っていました。しかし、「スポーツ界から使い捨てプラスチックごみをなくそう」という目的の日本財団が主催している「HEROs PLEDGE」の勉強会に参加して、雪が降らないとか、子どもたちにとっては夏場は暑すぎるといった気候変動の影響で、競技ができないと聞き、これからどんどんスポーツが縮小されていくなという現実に胸を打たれました。僕はずっとスポーツの世界で生きてきたので、これからの子どもたちを守っていくために、スポーツを軸に声を上げるのはすごく大事だなと感じて、いろいろと学ばせていただいています。

――子どもたちを守っていくという意識からなんですね。

五郎丸 僕が大学卒業後に経験してきたプロスポーツの現場は、クラブ専用のクラブハウスやグラウンドがあったり、自らのクラブで練習時間を選択できたり、選手の身を守るための環境が整っています。熱中症になってもドクターやトレーナーが側にいて、体を冷やす氷がすぐ近くにあります。しかし子どもたちはそうはいかない。練習も試合も時間を選べない環境です。空いている時間や場所を活用するしかありません。今の夏の暑さは、僕らの幼少期と比べてもレベルが違いますよね。それから、最近増えてきている人工芝は熱を逃がさないので、立っているだけでも辛い状況です。その芝の上で滑ってしまったら、足の皮膚が熱で火傷してしまいます。

――夏の人工芝は50度〜70度ぐらいまで上がると聞いたことがあります。

五郎丸 一方、冬は雪が降らなくなってきている。雪を求めて他の地方や外国に出られるのは、裕福な家庭やトップの選手になってしまいます。環境問題で一番初めに影響を受けるのは弱者だなとすごく感じました。だから声を上げて、少しでも力になれたらなというのが最初のきっかけです。

平田 すごい。感動して泣きそうです、私。

五郎丸 平田さんが環境問題に傾倒していったきっかけはなんだったんですか?

平田 だいぶ前のことになりますが、大学生の時です。'92年にリオデジャネイロで地球サミットがあったんです。たまたまニュースで知った時に、地球がなんかおかしいと、しかも人間の経済活動が原因かもしれないと聞いて、すごくショックだったんです。よく見たら国際機関も企業も誰もちゃんと向き合っていないことが分かった。それで卒業後に勤めていた会社を辞めて、アメリカの環境団体に履歴書を送ってポーンと入ったのがきっかけです。

――それからずっと地道に活動をしてこられて、最近はとても権威のある国際的な賞を2つ受賞されました。五郎丸さん、平田さんの気候変動の講義を聞いた時の感想を聞かせてください。

五郎丸 報道で、地球環境問題が大きな問題になっていて、(産業革命からの)気温の上昇をCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)でも1.5度に抑えようと言っていたりしますが、僕はそれが自分ごとにならなかったんです。でも平田さんの講義を聞いて、なんかすごいことになっているんだなと、スッと自分の中に入ってきました。(18世紀後半からの)産業革命や高度経済成長期からいきなり気温が急上昇しているグラフを見たら、すごく分かりやすくて。「ああ、自分たちが壊してるんだな」って。

 日本のような先進国が今まで出してきたCO2が原因で、ラグビーが強いサモアやトンガなどの太平洋の島国が沈んでしまう。そういうことがどんどん自分ごとになって、「変えなくちゃな」と思いました。

――今すでに目の前で起こっていて、これからもっと恐ろしいことが私たち全員に起こるのが分かっていても、他人ごとにしてしまう人が多い。平田さん、なぜだと思いますか?

【次ページ】 目標がクリアだと、入っていきやすい

1 2 3 NEXT

ページトップ