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「まずいレベルにある」気候変動問題に、スポーツ界はどう関われるのか。五郎丸歩が、専門家・平田仁子に聞く 

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井本直歩子

井本直歩子Naoko Imoto

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2025/02/21 11:00

「まずいレベルにある」気候変動問題に、スポーツ界はどう関われるのか。五郎丸歩が、専門家・平田仁子に聞く<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

初顔合わせだが、お互い関心が募っていた五郎丸歩さんと平田仁子さん

平田 伝わってないことが2つあると思うんです。まず1つ目に、気候変動が今、どれだけまずいレベルに入ってしまったのかが断片的にしか入ってこないから、共感できていないこと。でも実際、気候の変化が日々厳しくなってきている。夏が暑くなる、嵐が激しくなる、大雨になる、雪が降らなくなる、災害を受けて命を落とす人たちがいる。

 ロサンゼルスの山火事もそう。黄河、ガンジス川、インダス川、メコン川の水源になっているヒマラヤ氷河も溶けていて、そうすると、世界の3分の2くらいの食糧を供給する農地の水がなくなるんです。そんな、想像を超えるような破壊的な変化が、もう今、目の前で起こっている。今生きている一人の人間として受け止めるのが難しいくらい険しい状況が起こり始めています。

――昨年単年では(産業革命前と比べて)世界の平均気温は1.6度上昇し、パリ協定の世界の目標である2030年までの気温上昇抑制幅1.5度をすでに超えてしまったというニュースがありました。

平田 そうなんです。伝わっていないと思うことの2つ目が、変化に気づき始めていても、これは何が原因で、私たちはどうしなきゃいけないの? という意識に向かうところに、またものすごい距離があると思います。化石燃料とかなんやかんや難しくて全容がわからないし、どこかで専門家がやってくれると切り分けてしまいがち。私たち人間が産業革命以降、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を使い過ぎて、それを燃やす過程でできる二酸化炭素などのガス(温室効果ガス)が地球を覆って、地球の温度が上がっている。だから今すぐに石炭火力や石油火力を使うのをやめて、環境にやさしいエネルギーを使い、社会全体が環境負荷を減らさなければならない。でも仮にそれを知っても、専門家じゃないし、政治の話、国の話だから、自分にできることが分からない。そうやって目を背けてしまうのかなと思うんです。

目標がクリアだと、入っていきやすい

――特にスポーツをやっている人たちに、こういった地球や社会の問題を自分ごとにできる人は少ないのかも知れません。五郎丸さんは、どうしたらスポーツに関わる人たちが、この問題を自分ごとにして考えられると思いますか?

五郎丸 僕は「HEROs PLEDGE」のやり方がすごく上手だなと思っています。環境問題といっても様々な問題があります。知れば知るほど。「環境を変えましょう」と漠然と言われても、「何から取り組んだらいいんだっけ」となってしまう。でも使い捨てプラスチックごみをなくそうという目標がクリアだと、ライトな方も入っていきやすい。多くの人たちがこっちを見てくれるものを提供していくことがすごく大事だなと思います。

平田 そうですね。結局国とか地球とか言っても、問題を起こしている現場は全部地域にある。それぞれの活動が集合体になって地域社会があって、国を作っている。変化を起こすのは足元からなんですよね。「これやったらできた」という確かな達成感を積み重ねていけば、大きな力になっていく。

五郎丸 スポーツを切り口に持続可能な街づくりをして、「スポーツのまち磐田」としての付加価値を生み出していきたいと、今年11月に音楽フェスを企画しています。2日間のイベントに向けて、学校や企業を巻き込んで約7カ月のプロジェクト型の環境プログラムを専門家の方と組み、次世代を生きる子どもたちに環境問題を自分ごと化し、持続可能な街づくりのアイデアを考えてもらう。11月のイベントでは、5月から取り組んだ内容をアウトプットしてもらいたいと思っています。

平田 アウトプットってすごく大事。学校を巻き込んで、スポーツと教育との融合でいろいろできそうですね。自分1人でできることをちょっとやるだけじゃなくて、自分が何かやったら地域社会を大きく変えていく力になれるんだという、きっかけを与えられるといいですね。

――五郎丸さんが声をかけて、スポーツを軸に、自治体、企業、学校を巻き込み、輪が広がっている。これこそスポーツやアスリートの求心力がなせるわざだと思います。でもこの難しい問題に対し、アスリートが果敢に挑んでいくというのは、なかなか勇気がいると思うんですが。

五郎丸 これはもう、無知の強みですよ。

――高い目標を持って、難しいことにチャレンジしていく、不可能を可能にするということは、アスリートの性質でもありますよね。

五郎丸 そうやって小さい時から生きてきましたからね。

平田 なるほど。

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