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“デスマッチ女”をも呑み込んだスターダム上谷沙弥の狂気「赤いベルトを舐め回し…」“生の変貌”が魅力的な理由「中野たむへの復讐は終わらないから」
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原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2025/02/05 17:06
大変貌を遂げたスターダムの赤いベルトの王者・上谷沙弥。その狂気は“デスマッチ女”鈴季すずをも呑み込んだ
あの鈴季でさえも凌駕されてしまった。こうして展開される上谷沙弥の世界は、14周年を迎えたスターダムの新しい刺激なのかもしれない。
挑戦を表明した中野たむに「何様のつもりだよ」
以前、上谷は「凶器は使わない」とうそぶいていたが、12月29日の両国国技館では中野たむをチェーンで宙吊りにして、マス席からの通路への決死のダイブまで敢行した。
もう怖いものがなかった。劣勢になればアクシデントを装い、リングドクターまで突き飛ばして、中野から赤いベルトを奪い取ってしまった。赤いベルトを舐め回し、悦に入るその姿は、別世界への誘いにも見えた。
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「勝つためなら何でもやる」と上谷は豪語した。それが今の上谷だ。
それでいて、無茶苦茶な悪者の印象かと思えば、普通の人にも見えるし、その仕草につい見ている方が笑顔になってしまうこともある。上谷は短期の内に人格まで使い分ける技を身につけたのかもしれない。特異なキャラクターはさらなる進化に向かっているようにも見える。
この日のセミファイナルでアーティスト(6人タッグ)のベルトも失って無冠になった中野たむが、初防衛に成功した上谷の前に姿を見せた。
「このタイミングなのか?」と筆者は思った。
12月、上谷への優しい気遣いを見せていた中野の気持ちなどお構いなしに、上谷は中野を陥れた。中野は、全部飲み込むつもりだったのに、上谷の策にはまって怒った。敗れた日の両国では「地獄の底」という言葉で上谷に復讐を宣告した。それなのに新年になっても「中野たむは大人しいな」と思っていた。だが、ついに秘めていたものを抑えることができなくなった。初防衛を果たした上谷が次の挑戦者を募ると、応えたのは中野だった。
「お前さ、この前負けたばっかだよね。何様のつもりだよ。もしかしてオツム弱いのかな? ねえ覚えてる?」
やはり「はい、そうですか。やってやる」と一筋縄にはいかない。





