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“デスマッチ女”をも呑み込んだスターダム上谷沙弥の狂気「赤いベルトを舐め回し…」“生の変貌”が魅力的な理由「中野たむへの復讐は終わらないから」
posted2025/02/05 17:06

大変貌を遂げたスターダムの赤いベルトの王者・上谷沙弥。その狂気は“デスマッチ女”鈴季すずをも呑み込んだ
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原悦生Essei Hara
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Essei Hara
上谷沙弥と鈴季すずの赤いベルト戦(ワールド・オブ・スターダム選手権)はスターダムの旗揚げ14周年記念大会のメインイベントとして2月2日、満員札止めの後楽園ホールで行われた。上谷は水を得た魚のように動き回り、その表情はある境地にでも達したかのような変貌ぶりだった。
“デスマッチ女”をも呑み込んだ上谷沙弥の狂気
12月29日、両国国技館での中野たむ戦前は「まだ方向性は定まっていない」と言っていた上谷だが、「何をやってもいい」という姿勢は表れていた。それが「だまし討ち」で中野を下してから、一層の拍車をかけたようだ。
悪魔が勝手に上谷の体内に宿ったのか、上谷が自ら悪魔を呼び込んだのか、もともといたものが蘇ったのかはわからない。だが、その狂気は“デスマッチ女”の鈴季まで呑み込んでしまっていた。
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上谷は卓越した運動能力を持っていたが、気持ちは決して強くなかった。むしろ、「上谷、大丈夫か」とひ弱さを感じてしまうこともあった。でも、上谷は弾けた。弾けて、弾けて、ひ弱さはどこかに吹き飛んでしまった感がある。上谷の気持ちは間違いなく強くなった。
以前にも触れたことがあるが、コアなプロレスファンが集まる水道橋の居酒屋「たかところ」に行ってみると、「2024年たかところプロレス大賞」のランキングが貼ってある。そのプロレス大賞女子部門は「1位:Sareee 2位:Chi Chi 3位:上谷沙弥」だった。さらに一番下には“流行語大賞”が貼ってあり、それも興味深かった。
「1位:極悪女王 2位:今日はお前を泣かせにきた 3位:永遠にさようなら」
「今日はお前を泣かせにきた」は6月のサイン会であるファンが上谷に浴びせた暴言の一つで、7月28日に札幌で上谷が舞華に向けて放った言葉でもある。「永遠にさようなら」も同日の上谷のものだ。
上谷におどろおどろしさはない。でも、人を食ったような表情は今の上谷にドハマりしている。もはや悪役とかヒールとかの概念を超えたところに近づいているように思える。今までに存在しなかった何かに上谷が向かおうとしているようだ。一つの新しいキャラクターが誕生したのかもしれない。それはペイントやマスクといった力を借りない、「生の」変貌だ。その変貌ぶりに観客は引き込まれて、自然に称賛の声を送ることになる。