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「恐怖心から弱気に」藤井聡太14歳に“29連勝を許した”8年後のタイトル初挑戦…増田康宏27歳とは何者か「矢倉は終わった」大胆発言集の背景 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byNanae Suzuki

posted2025/02/05 06:01

「恐怖心から弱気に」藤井聡太14歳に“29連勝を許した”8年後のタイトル初挑戦…増田康宏27歳とは何者か「矢倉は終わった」大胆発言集の背景<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

藤井聡太棋王に増田康宏八段がタイトル初挑戦する棋王戦が開幕した

「藤井さんが序盤で失敗したので、自分は勝てると思っていました。しかし28連勝している相手だと意識すると、恐怖心から弱気な手を指してしまいました。藤井さんに勝つには、ぎりぎりの線でいくしかありません」

 棋王戦第1局を迎えるまでの対戦成績は藤井6勝、増田1勝。増田の唯一の勝利は、2局目となる竜王戦の決勝トーナメント2回戦で、終盤で好手を連発して雪辱を果たした。増田は藤井に大きく負け越しているが、内容的には接戦が多い。直近の対局は2025年1月8日の叡王戦。戦型は角換わり腰掛け銀で、藤井が攻め切って勝った。

棋王戦に向けて「特別な藤井対策はありません」

 増田は今期棋王戦で、木村一基九段、伊藤匠叡王、渡辺明九段、近藤誠也七段らを6連破して勝者組を勝ち進んだ。そして敗者復活戦の勝ち抜き者の斎藤明日斗五段に勝ち、藤井棋王への挑戦者となった。棋士10年目でタイトル戦に初登場した増田八段は棋王戦に向けた戦略について、インタビューなどで次のように語った。

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「これまでに試行錯誤を重ねながら努力したことが実を結び、棋王戦で挑戦できました。藤井さんとの対局では、AI(人工知能)を生かした序盤という形にはしません。それは自分に合わないからです。棋譜並べや詰め将棋と、昔ながらの勉強法を取り入れています。特別な藤井対策はありません。持ち時間を使わせて苦しませる展開に持っていきたい。大事なことは中終盤の戦い方で、伊藤(匠叡王)くんが昨年の叡王戦で藤井さんに勝ったのも中終盤の力が強かったからです。自分なりに工夫して、最後まで接戦になる面白い将棋を指したい」

 棋王戦第1局の前夜祭で両対局者は、次のように語った。

 藤井「土讃線の特急『南風』に乗って、ダイナミックな車窓の景色と振り子式の車体の傾斜を満喫しながら高知に来ました。増田八段とのタイトル戦は初めてで、しっかり集中して対局に臨みたい」

 増田「タイトル戦は子どもの頃から夢にまで見た舞台なので、とても感激しています。藤井棋王の得意戦法の角換わり腰掛け銀が難敵で、明日は受け身にならない先手番になることを願っています」

早指しで受けに専念…しかし藤井の柔軟性が炸裂

 2月2日に高知県高知市で行われた棋王戦第1局では、増田八段は慣例として和服を着用した。初体験なのに、なかなかさまになっていた。「振り駒」の結果、藤井棋王の先手番に決まった。持ち時間は各4時間。

 戦型は予想どおり角換わり腰掛け銀。藤井は桂を4筋に跳ねて開戦した。注目されたのは増田の消費時間である。ひとつ間違えると攻め倒されかねない状況で、早指しで受けに専念した。事前に対策を考えていたようだ。「つぶされるもんか」という増田の無言の主張のようにも感じた。

【次ページ】 増田の大胆な物言いと、率直な将棋観

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