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「恐怖心から弱気に」藤井聡太14歳に“29連勝を許した”8年後のタイトル初挑戦…増田康宏27歳とは何者か「矢倉は終わった」大胆発言集の背景
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph byNanae Suzuki
posted2025/02/05 06:01

藤井聡太棋王に増田康宏八段がタイトル初挑戦する棋王戦が開幕した
登場順に増田四段、永瀬拓矢六段、斎藤慎太郎六段、中村太地六段、深浦康市九段、佐藤康光九段、羽生三冠。錚々たる顔ぶれで、常識的に見れば藤井は7局のうち2、3勝すれば健闘といえるメンバーだった。中学生の藤井に合わせて、対局は日曜日、持ち時間は各1時間、収録は1日2局、対局場は東京・渋谷のABEMAの施設と設定された。
増田は三段時代の藤井と、16年3月とその5カ月後に研究会で指していずれも勝っている。三段リーグを1期で抜けたのは、運の良さと勢いもあったのでは、というのが当時の見立てだったという。藤井は対局前に増田の実戦譜を20局ほど調べて臨んだ。
隙がまったくないほど強くなっていて驚きました
増田−藤井戦は17年3月12日に放映された。戦型は角換わり腰掛け銀。増田が飛車香で先手玉を直撃すると、藤井の玉が矢面に立って受ける応手が意表を突いた。藤井は窮地を逃れ、終盤で一気呵成の寄せで勝った。
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藤井は初戦に1勝し、全敗をまぬがれてホッとしたという。一方の増田はどうだったか。対局後、このように語っていた。
「絶対に勝てると思っていましたが、1年くらいで隙がまったくないほど強くなっていて驚きました」
藤井四段は第2局で永瀬六段に敗れたものの、第7局で羽生三冠に勝つなど同企画で6勝1敗という圧倒的な成績を収めた。藤井はその後、公式戦で連勝街道を突っ走り、6月21日にタイ記録の28連勝を果たした。次の対戦相手は「誰が負かすのだろうか……」と見ていた増田となった。
藤井さんに勝つには、ぎりぎりの線でいくしか
17年6月26日。竜王戦の決勝トーナメント1回戦で、5組優勝の増田四段と6組優勝の藤井四段が公式戦で初対戦した。対局場の東京の将棋会館には約50社・150人の報道陣が詰めかけていて、異様な熱気がみなぎっていた。増田は対局前日に「勝つためには一手のミスも許されない」と、異例のコメントを発表した。
戦型は増田の雁木(がんぎ)に対して、藤井は早繰り銀で先攻。増田は中盤で柔軟に対応して有利になったが、攻め急ぎや受けの誤まりで形勢を損ねた。そして藤井は終盤で角桂を駆使した鮮やかな寄せで勝ち、最多記録となる29連勝を達成した。終局後の対局室は、数多くのカメラの放列が増田の背中越しからも藤井に向けられた。
増田は後年、このように語った。