「泣いちゃうよ…」負けた西山朋佳が美しい気配り、“勝っても何もない”26歳試験官は新手を「ホッとしましたが明後日も…」観戦棋士が感涙のワケ 

　西山は、「本局については完敗だったので悔いはありません」とさわやかに語った。この将棋を見るために来たんだというと「ありがとうございます」と頭をさげる。大一番を負けたあとなのに、こうして美しい気配りができる。だから将棋界でもどこでも西山ファンが多いのだ。

　棋士室に入ってきた柵木に、畠山と私で健闘をたたえた。「見事な戦いだったね」と私が言うと、畠山も「君にとって人生の糧となる勝利だったよ」と声をかけた。畠山の眼差しは厳しく、そして優しい。

　柵木にも感想を聞けた。

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「序盤は齊藤くん（裕也四段）と研究していました。はい、昨日も振り飛車党と指していました」

　よく▲7五桂を打てたねと聞くと、柵木は苦笑いした。

「最初は角を逃げようと思っていたのですが、△8六銀で負けと気付いて。いや、開き直るしかなかったです」

「ホッとしましたが、明後日も対局なので」

　そして、今の気持ちは？ 

「ホッとしましたが、明後日も対局なので」

　もう前を向いていた。そうだ。柵木はフリークラス四段。あと8年以内にフリークラスを昇級できなければ引退という一番大事な時期なのだ。本局は、勝ってもおめでとうと言われることはなく、負ければ歴史的偉業の相手役として、負けた結果だけが永遠に残る。そんな中で、柵木は素晴らしい将棋を指した。将棋界は残酷で厳しい世界だが、それでも、柵木にも西山にも、これからも頑張ってほしい。

　そして西山にはまたチャレンジしてほしい。〈第1回からつづく〉

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