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将棋PRESSBACK NUMBER
「泣いちゃうよ…」負けた西山朋佳が美しい気配り、“勝っても何もない”26歳試験官は新手を「ホッとしましたが明後日も…」観戦棋士が感涙のワケ
text by

勝又清和Kiyokazu Katsumata
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/02/01 06:01
西山朋佳と柵木幹太の棋士編入試験第5局は公式戦ではなかった。しかしその熱量はタイトル戦にも勝るとも劣らないものだった
銀を打って守り、歩の王手に端に逃げる。イヤミを残し、複雑化させる。角を打ち、空き王手を狙う。まだまだ、諦めない。しかし柵木は落ち着いていた。角取りに飛車を寄ったのが勝ちを決めた一手。これで自玉が寄らなくなった。
西山投了。
終局時刻は17時54分。消費時間は▲柵木2時間57分、△西山2時間59分。西山は編入試験3敗目を喫して敗退し、史上初となる女性棋士は誕生しなかった。
公式戦でなくても新手「試験官には感謝しています」
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終局後、対局室に行くと、柵木がネクタイを締めながら和やかに検討していた。2人とも、勝負師から研究者の顔つきになっていた。やがて報道陣がなだれこみインタビューが始まり、西山の第一声。
「難しい立場の中、5人の試験官の方々には、公式戦もあってお忙しい中、あまりメリットもないような戦いということで、葛藤も拝見していたんですが、それぞれの考えで向き合ってくださったことにはすごく感謝しています」
思わず目をふせる。ここで感謝の言葉を述べることができるとは! おじさん涙腺がゆるいんで泣いちゃうよ。
たしかに西山の言う通りだ。初戦の高橋佑二郎四段から、山川泰熙四段も上野裕寿四段も宮嶋健太四段も、皆が全力で西山と戦った。新手を指したのは柵木だけではない。山川は玉の移動を削って攻撃形を作る新手を見せた。宮嶋もわざと手損してから攻めるという前例のない新手を見せた。彼らにとっては公式戦の成績にも生涯成績にも関係ない。にも関わらず、惜しみなく新手を披露したのだ。
西山は本譜を振り返った。
「△8七歩を打ったあたりは、もしかしたら何かあるかもしれないと思ったんですが、▲7五桂が想像以上に、詰めろ級の手で、足りないかなと思いながら指していました」
やっぱりあそこではやれると思っていたのだ。あれだけ非勢の将棋をギリギリの一手違いに持ち込んだ腕力はいくら称賛しても、し足りない。そして、そこで角を見捨てて▲7五桂と打った柵木もすごかった。これを名局と言わずして何を名局と言おうか。
感想戦と記者会見後、西山は美しい気配りで
感想戦が終わった。西山が先に退室したのち、柵木に「お疲れさまでした。素晴らしい将棋でした」と声をかけると、「ありがとうございます」との返答があった。そして「ほっとしながらも、明後日対局だなあと」とも笑っていた。
西山の記者会見後、棋士室で2人に話を聞くことができた。

